マクガフィンはなんでもいいとはいうけれど
・トリュフォー:(映画「海外特派員」の)<マクガフィン>という暗号は単にプロットのためのきっかけというか口実にすぎないのではありませんか。
・ヒッチコック:そう、たしかに<マクガフィン>はひとつの<手>だ。仕掛けだ。しかし、これにはおもしろい由来がある。きみも知ってのとおり、ラディヤード・キプリングという小説家はインドやアフガニスタンの国境で現地人と戦うイギリスの軍人の話ばかり書いていた。この種の冒険小説では、いつもきまってスパイが砦の地図を盗むことを<マクガフィン>と言ったんだよ。つまり、冒険小説や活劇の用語で、密書とか重要書類を盗みだすことを言うんだ。それ以上の意味はない。だから、ヘンに理屈っぽいやつが、<マクガフィン>の内容や真相を解明しようとしたところで、なにもありはしないんだよ。(ヒッチコック/トリュフォー 映画術)
嶺岸信明/土屋ガロン(狩撫麻礼)「オールド・ボーイ」読みました。2004年カンヌでパルムドールに次ぐグランプリをとった韓国映画の原作。もっと話題になっていいと思うんですが、日本じゃ(少なくとも原作マンガには)わりと冷淡。
実はわたしも映画のほうは見てないんで、マンガのことだけ。
理由もわからず私設刑務所に10年も幽閉された男が突然解放される。彼は自分を閉じ込めた敵、大金持ちの「仮名・堂島」を追う。なぜ自分は幽閉されなければならなかったのか。
主人公の動機は復讐です。いつもの狩撫麻礼作品の主人公と同様に、ストイックで反権力で反商業主義。あまりにストイックなもんで、手に入れた拳銃や堂島と連絡がとれるケータイまでも捨ててしまう。「《この社会》に順応した善人っぽい男」ではないヤツ。ああ、いつもと同じ狩撫麻礼だ。安心するというか、苦笑いするというか。タイトルのオールド・ボーイは古くさい人間という意味かしら。
アイデアも豊富に用意されており、まず、主人公が自分を幽閉されていたビルを見つける方法がなかなか。体に埋め込まれた発信機や、後催眠なんてものも出てきます。
単行本全8巻の前半は、主人公がいかにして堂島を見つけるかの人探し。ちょうど中間点で主人公と堂島が直接出会い、後半は、主人公と堂島の関係は何か、なぜ堂島が主人公に悪意を抱いたか、のホワイダニットです。
とくに後半は、主人公と堂島が丁々発止のやりとりをしながら、主人公が自分の記憶を探る展開です。主人公と堂島の過去に何があったのか。「もっと凄まじい…」「ギリシャ悲劇に匹敵するような……………」
これは期待するでしょ。当然この謎が明かされるのがラストシーンです。
ところが。
結局、驚愕のラストシーンに出会う事は出来ず、この長編を支えた謎は単なるマクガフィンであったことが明かされるだけでした。でも途中の展開がけっこう面白かったからそれでいいとするか。しくしく。
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