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January 20, 2005

森博嗣とマンガ

 今まで森博嗣について2回書いてきましたが、

第1回
第2回

今回は3回目。もともと森博嗣の大ファンというわけではなかったので、スミマセン、彼がマンガ方面でこんなに有名人であることを知りませんでした。

 1957年生まれ。愛知県出身。現役の国立N大学助教授でありながら1996年「すべてがFになる」でミステリ作家としてデビュー。以後大量の作品をすっごいペースで執筆。マンガを描くときのペンネームは「森博嗣」と書いて「もりむく」と読ませていました。


■まず、山本直樹(1960年生まれ)のマンガ「森さんとわたくしとか」(「毎日は笑わない工学博士たち」所収)から。

 1979年冬、山本直樹が書店で「ぱふ」1979年11・12月合併号「特集・全国まんが同人誌地図」を立ち読みするシーン。

・そうか、この世には同人誌というものがあるのか

 そして、森博嗣のマンガを読んで、

・おお、これは!

 山本は大田区産業会館で開かれていたころのコミックマーケットに向かいます。

・その叙情的でむつかしい作風に魅せられた私は、コミケットやMGM通いを始めたのでした

・コレクターモードでいろいろ買い集めましたとも

 劇画村塾で友人と。

・「これって山本君の言ってたあの人でしょう?」「え?」「なぜクサカベ君がこのような激レアな青焼コピーを?」「なぜかもってるのだよ」「さしあげよう」「ありがとうござい」

・模写もしましたとも

・そのあたりで森博嗣作品集『CARPET CRAWL』(森さんの読み方ではカーペットクロル)をゲット

・自分でも描き始めるようになってからは、だんだん同人誌即売会には行かなくなりました

 青コピー時代からの活動だったんですねー。岩田次夫によると、

「青コピーは、ふつうのトレース用紙に絵を描いて、それに光を透過させて複写するので、薄墨やベタ、効果も使えるし、濃淡も非常に美しく出ます。でも欠点が一つだけあって、修正が効きません。光を透過させるので、ホワイトを使うとベタになるんです。インク消しなどで多少は修正できますが、基本的には何もできません。ですから、下絵は鉛筆でものすごく薄く描いたり、光が透ける青で軽くアタリを描いて、それからペンを入れます。かなり丁寧に仕上げないといけないので、完成原稿は本当に綺麗です。たいへんですけど、当時は、それしかないですからね。」

 青コピー同人誌は1981年にほとんど消滅したと言われています。森博嗣の絵はすごくテイネイで細かいタッチなんで、原稿を見てみたいなあ。


■続いて山田章博(1957年生まれ)の文章(「森博嗣のミステリィ工作室」所収)より。

・20年近くも前になるだろうか。

・当時、森氏は東海地方の漫画同人で知らない人のいないビッグ・ネームだったし、僕は関西の社会人サークルで、1、2作を発表したばかりの駆け出しだった(アマチュアの駆け出しというのも妙だが)。森氏はハイペースで自作を発表する一方、多くのアマチュア作家の紹介にも精力的だった。現在の小説にもその片鱗が窺えるどころか、却って増幅された感のある硬質な数学性と叙情性は、既に氏の漫画作品の作風となっていて、その徹底ぶりはエピゴーネン(追随者)の出現を許さなかった。


■大学時代の後輩のマンガ家、萩野真(1959年生まれ)の文章(「森博嗣のミステリィ工作室」所収)より。

・もう20年も前になるが、ぼくが入部したN大漫画研究会は、創立わずか3年目のサークルで、部員は40名ほどもいたのに部室がなく、あまり利用者がいない教養部新館の談話室をタマリ場にしていた。(略)ほぼ毎日顔を出していたぼくは、わずかの間にただ一人の先輩を除くほとんどの部員と顔見知りになった。

・聞けば、学漫以外にも同人誌を出していて、当時中部圏では唯一の同人漫画即売会“コミック・カーニバル(略してコミカ)”も主宰する、メチャエネルギッシュで頭のキレる人だとのこと。

・それが当時、同人誌界では知らぬ者のないコミカのドン、森博嗣先輩その人であった。

・しかし、知り合って4年後、その彼が唐突にすべての漫画活動をやめてしまった。理由は様々に言われたが、彼自身はあまり多くを語らなかった。ただ、ぼくなりに考えられる理由の一つが、当時の同人誌界の急激な変貌だった。

・森先輩はコミカ発足の当初から、大手商業誌の作家や、その商品化された作品に群がるオタク同人誌やコスプレ集団の参加を、かたくなに拒否し続けていた。しかし東京、大阪の即売会が、彼らの数とパワーに席巻されていく中、名古屋も変わらざるをえない状況になっていた。

 当時の森博嗣が、マンガ作家として、よりも、マンガ同人誌や同人誌即売会のプロデューサーとして、同人誌界に強くかかわっていたという見方です。そして1985年からの「キャプテン翼」同人誌の大ブーム。これといれかわるように森博嗣はマンガから去って行きました。


■初期の名古屋コミック・カーニバルがどのような性格だったか。「封印サイトは詩的私的手記」所収の森博嗣の日記から。

・(大学時代の同級生のサイトを紹介して)彼女は名古屋で同人誌即売会を最初に始めたグループ・ドガのメンバの1人。この即売会、コミカという名称で、創作オンリィ。つまり、評論やファン誌も(グッズもパロディもコスプレも)一切排除する凄まじいポリシィでしたが、やはり、メンバの意志の集合だったのでしょうか。

・(創作オンリィは珍しかったのかという問いに)コミカは東京のコミックマーケット(コミケ)に続く、日本で2番目の同人誌即売会でしたので、珍しいというか、他に例はありませんでした。創作オンリィではグループの数が揃わなかった、ということもあって、その後の多くの即売会は、何でもあり、になっていきました。コミカが創作オンリィだったのは、ひとえに主催グループの個性です。

 メンバの意志、グループの個性、と語っておりますが、やはり森博嗣自身の意志でもあったわけでしょう。


■森博嗣と萩尾望都の対談(「森博嗣のミステリィ工作室」所収)より。

・僕は、萩尾先生のほかに好きな漫画家はいないし、好きな作家もいない。萩尾先生、お一人だけ。だから僕にとって萩尾先生はマンガを描くきっかけというよりは、創作をするきっかけそのものです。

・(マンガを仕事として選ばなかったのはなぜかという問いに)いや、単に才能がなかっただけです(笑)。


■とは言うものの、マンガに対する想いは屈折しているようです。「別冊宝島 森博嗣本」では、

・(マンガ家・森博嗣の長所と短所は、という問いに)長所は純度を求める抽出力、短所は非エンタテインメント性、そして寡作だったことか、と思います。

・少なくとも、小説よりは漫画の方が上手です(この自己評価は揺るがない)。

と、言いきっております。


■今も読める森博嗣のマンガ

森博嗣のミステリィ工作室
 ・EXPRESSION KYOTO:1983年
 ・Born to Run:1985年
 ・茉莉森探偵事件簿(1)(3)(6)(10):1997〜1998年
 ・夢の街:1987年

毎日は笑わない工学博士たち
 ・のんたくん:1983年

封印サイトは詩的私的手記
 ・まどろみ消去:1979年、トビラページのみ
 ・顕在する私たちの心へ:1984年
 ・watch over the cradle:1984年


■最後に、ほったゆみ(1957年生まれ)について。「封印サイトは詩的私的手記」より。

・当時のドガの主宰が早稲田漫出身の堀田清成氏(現在、中日新聞で彼の絵が毎日見られます)で、『ヒカルの碁』(残念ながら見たことがないのですが)の原作のほったゆみ氏と結婚されたのは、森とスバル氏(注・森氏の妻、イラストレータのささきすばる氏)よりずっと早かったですね。ゆみさんとは、1度、オセロをして負けたことがあって、森はオセロで負けたのはあの1度だけですね(笑)。

 「ミステリ作家兼工学部助教授」対「囲碁マンガ原作者」のオセロ。そうとう高度な対戦だったのかしら。

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Comments

ほかにも、こんなのがありました。
西崎まりの『美熱少女』(白夜書房)P88より引用。
 森博嗣氏の作品集に”CINEMA SHOW”というのがあり、手にした当時、大変な感銘を受けたのを覚えてます。それは作中の主人公リオン(LION)への憧れとも相俟って、最初の個人集作成に対する一つの契機になりました。
 ”何かを求めたり、愛したりするから 不自由になる”(FOX ON THE RUNより)
だけど、私は”此処ではない何処かの希求”としての風
街を創り、不自由のまま彷徨っています。

青コピー誌は、多分作品集ではなく、通信会誌(ティータイム)ではないかと思います。(一人1ページ文字+カットくらい)文字の書きミスをぬりつぶして植木鉢の絵にアレンジして、ついでにお花が咲いていましたっけ。絵をミスしたら書き直しだと言っていた記憶がありますが・・・


Posted by: とくめいきぼう | January 28, 2005 12:25 AM

西崎まりの氏は昨年亡くなられたのでしたっけ。
わたしは読むほう専門なんですが、森むくの作品は描き手を魅了する何かがありそうですね。みんなああいうのが描いてみたいのか。

Posted by: 漫棚通信 | January 28, 2005 03:00 PM

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