名作になりそこねた「エマージング」
外薗昌也「エマージング」が2巻で完結しちゃいました。けっこう評判になってたのにねー、長期連載とはなりませんでした。
エボラ出血熱を描いたノンフィクション「ホット・ゾーン」が1994年。ダスティン・ホフマン主演の映画「アウトブレイク」が1995年。そして10年。SARSや鳥インフルエンザを経験しても、まだまだおそまつな日本の感染症医療や行政を背景に描かれたパニック・マンガが「エマージング」でした。
エボラに似た症状をもつ新興感染症が日本で発生。感染力が強く、致死率も高い。もちろん治療法もない。
この作品では咳をする患者がウイルスをばらまくシーンを、神の目で見ることから始まります。ホラーとして描かれるわけです。そして患者の急死のシーン。ここもホラーです。そして医療現場、報道、政府、市民のパニック。
風呂敷を広げようと思えばいくらでも広げられる題材を手にしているのに、残念ながらすべてのシーンが不十分な描写となってしまいました。たとえば医療現場のパニックがこの程度であるわけがない。救急車を使う患者搬送で、救急隊員がどれほどの危険と隣り合っているか。一度使った救急車の消毒をどうするのか。感染を恐れる医療スタッフの現場放棄がどの程度あるのか。
描かれていない部分もいかに多いか。世界に目を向けるとWHOはどう動くか。各国政府が日本に対してどのような対応をするか。感染症は感染ルートの検索こそミステリ的に面白くなると思うんですけどそれは。そして治療法の発見はどうなされるか。パニックに政治はどう対応するか。今ちょっと考えただけでも、ああ、あれも読みたい、これも知りたい。
おそらく著者も描きたいこといっぱいあったんでしょうが、2巻の後半で事件をあっというまに収束させてしまいました。おそらくは打ち切りでしょう。すべてを描ききれば(すごく難しいことではありますが)、名作になるはずだったのに、惜しかったなあ。
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