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December 10, 2004

メガネは今でもムズカシイ

 山名沢湖「委員長お手をどうぞ」1巻は、ある高校のいろんな委員長(風紀委員長とか美化委員長とかね)を主人公にした短編集ですが、委員長といえばメガネっ娘だあ、というわけで6話中2人がメガネかけてます。著者のコメントによると、もっとメガネかけさせたかったけど多すぎるので控えた、と。

 さて山名沢湖の描くメガネっ娘はちょと変わった表現。メガネの下の部分だけを目の下に描いて、メガネ上部の線を省略している。メガネのつるも省略。この描き方、他のマンガでも見かけたことあったような。

 実はこれ、レンズが上下にせまいメガネの表現です。トミー・フェブラリーとかがかけてるやつね。つまり、このマンガの登場人物は古典的少女マンガに近い顔の造作なもんで、当然のように目がでかい。だから上下にせまいメガネをかけると、目のほうが大きくなっちゃって、きちんとメガネを描いちゃうと瞳のところをメガネの上部ラインが横切ることになる。だから線を省略してるんですね。こりゃかなり無理な表現だなあ。

 古典的マンガの登場人物がメガネをかけると、目は単なる点で表現されました。のび太くんですな。メガネのレンズの中でこの点は黒目としてみなされ、レンズ内のあちこちに移動して視線の方向をあらわします。でも「へ」の字になって笑ったり、片目をつぶったりも可能で、これは黒目であったり、目そのものであったりのファジーな物体です。

 この人物がメガネをはずしたときは、この点はあきらかに目そのものです。つまりメガネをはずすと、目がすごく小さい人物となる。近眼だからメガネをはずすとまわりが見えにくい、という表現にも使えましたけど。

 目の大きなヒーロー、ヒロインクラスの人物にもメガネをかけさせたい。次に考えられたのがメガネを描いて目を描かない手法。手塚治虫「リボンの騎士」の目だけおおうマスクもメガネのバリエーションでしょうが、少女クラブ版ではマスクの目の部分は空白でした。なかよし版では空白だったり、暗黒だったり。目を描いたカットもありますが、やはり大きな目の周囲がうるさくなってデザイン的にもうひとつ。

 メガネを描いて目を描かない手法は今でもあたりまえに使われています。これなら、メガネをはずすとあら美人、というサプライズを演出することも可能。本来の大きな目より小さなメガネをかけさせることもできなくはない。ただしメガネ人物に目がないということはサングラスといっしょで、感情表現ができなくなるのが難点です(ただし真っ白な目と同じ効果を期待する時は別)。

 というわけで、70年代少女マンガのメガネっ娘は大きな目にあった大きなレンズのメガネをかける、という表現をされてきました。多くは銀縁メガネか、レンズに直接つるをつないだタイプ。というか適当な丸でした。メガネに枠があるとただでさえ大きく複雑な表現をしている目の周囲がうるさくなっちゃうんで。ただしマンガの中での目の大きさとメガネの大きさの比率は、リアルのそれとはかなり違うものとなります。実はこの比率の違いこそ二次元メガネっ娘萌えのルーツじゃないか。現実にはありえない目とメガネの大きさの比率が微妙な「カワイイ」を誕生させたのかも。

 この表現はメガネをかけたままでの感情表現を可能としましたが、目が大きいとそれだけメガネも変形せざるを得ないわけで、他の服装を含めた小道具がリアルをめざしている中、メガネだけが取り残されることになります。

 1980年、画期的なメガネっ娘が登場。「Dr.スランプ」のアラレちゃんは、大きなマンガ的な目を持ちながら、きっちりした枠のある立体的メガネをかけました。しかも着脱可能、目の周囲もうるさいと感じられない処理。当時プラモデルでアラレちゃんを作ったことがありましたが、メガネも立体、顔も立体で、作ったあとにメガネかけさせてちゃんとアラレちゃんに見えました。鳥山明の画力はすごいなあ。

 以後マンガの中のメガネは、なんとかきちんと立体で描こうとする派と、どうでもいい丸に描いちゃえ派にわかれます。雑誌の表紙になる女の子などはかなりていねいなメガネ描き込みですよねー。ただ目がどうしても大きいので、メガネのリアルを求めると鼻メガネ化しちゃいがち。老眼鏡かっ。

 現代日本マンガの弱点というか、特徴というか、リアルから大きく外れているのが目と鼻の表現です。このふたつの間にあるのがメガネ。ですからメガネもムズカシイ。最近の目の小さなリアル系登場人物たちにはなんてことのないメガネですが、日本マンガの伝統的大きな目を守ろうとするグループにとっては、メガネ表現はまだまだ苦難の道のりが続きそう。

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Comments

はじめまして。斉諧生(せいかいせい)と申します。日頃愛読させていただいております。則巻アラレ以前のメガネっ娘で印象深いのが、柳沢きみお『翔んだカップル』の杉村さんで、まさしく「メガネを描いて目を描かない」「メガネをはずすとあら美人」「本来の大きな目より小さなメガネ」の3点セットでした。(もっとも連載のごく初期に眼鏡を外しましたから「メガネっ娘」に分類できないかもしれませんね。失礼しました。)

Posted by: 斉諧生 | December 11, 2004 02:33 PM

「パトレイバー」の悪役・内海課長は「メガネで顔の輪郭が屈折してずれた描写になっている!活気的なリアルさだ!」と一部で騒がれた気がするのですが、その系譜はいま受け継がれているんですかね?
というか、彼が元祖なのかな?

Posted by: グリフォン | December 11, 2004 08:59 PM

コメントありがとございます。
>斉諧生さま。で、でたな妖怪。いや、杉村さんのことじゃなくて、「翔んだカップル」という作品そのものが妖怪のよう。そういえば杉村さんはメガネはずし美人の究極モデルみたいな人でした。今なにをなさっているやら。さすがに「翔んだカップル21」まではフォローしておりません。
>グリフォンさま。実はメガネ屈折で顔輪郭ゆがみというのは、ゆうきまさみが「あ〜る」ですでにやっておりました。おそらく元祖はもっと前のだれかじゃないかと。

Posted by: 漫棚通信 | December 11, 2004 11:21 PM

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