シガテラとは
最近のマンガでもっとも楽しみに読んでいるもののひとつは、古谷実「シガテラ」です。稲中以来の「ヘンな顔のアップ」や「若い恋愛の気恥ずかしさ」などがいっぱい詰まってて読みながら笑えるのに、この不安感は何だ。
特に2巻までの、へらへら笑いながらも、このままですむはずがない、絶対カタストロフィがくるに違いないと思いながら読む、奇妙な感覚。今までに出会ったことのないオモシロサです。ついに3巻になって悪意と暴力が渦巻き始めていよいよこれからに期待。
シガテラ(ciguatera)とは何でしょうか。熱帯・亜熱帯の魚によっておこる食中毒で、通常日本でよくおこる腸炎ビブリオなどの細菌性食中毒とは異なり、シガテラ毒といわれるシガトキシンやマイトトキシンなどの神経毒によって引き起こされるものです。神経毒ですから症状は下痢や嘔吐よりも、四肢のしびれ、重症になると呼吸困難となることも。
シガテラ毒のおもしろいところは、魚がもともと毒を持っているのではなく、サンゴ礁についている有毒な藻類を草食魚が食べて、体内に毒を蓄積する。さらに草食魚を肉食魚が食べて、毒はどんどん高濃度になっていく。これをヒトが食べて中毒になるんですね。
実は、身近なところではフグ中毒もこのパターンです。フグも、もともと毒をもっているわけではありません。フグ毒の本体、神経毒のテトロドトキシンも、藻類に付着する微生物→これを食するヒトデなど→これを食べる貝類→これを食べるフグと食物連鎖の中でバトンタッチされていきます。フグ毒も神経毒で、呼吸筋マヒで死亡します。
興味深いのはこれらの毒は、サカナにとっても毒なんですね。毒に弱いサカナは毒を食べて死んじゃって、毒に強いサカナだけが生き残っていく。そして最後に食べた人間に害をおよぼすのです。
さて、「シガテラ」の中でシガテラ毒が悪意だとすると、悪意は食べてられてその人間を殺すこともありますが、その悪意で死ぬことなく悪意を蓄積させる奴もいる。さらにその悪意が次の人間に食べられ、そいつが強ければ悪意はさらに濃縮されバトンタッチされる。このマンガのラストシーンでは、悪意はどの登場人物の中で、どこまで濃縮されるのでしょうか。考えるだにオソロシイ。
というわけで、このマンガのタイトル、「シガテラ」じゃなくて「フグ」でもよかったんですが、さすがにこれではちょとまずいか。
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