ヒーロー・チームは何人?(その1)
録画したBSアニメ夜話をぽつぽつ見てますが、過去わたしがもっとも好きだったTVアニメは「ガンバの冒険」でした。1975年作品ですが、間違いなく、それまでに作られた日本TVアニメのうち最高傑作と断言します。現代の目で見てもなんら色あせることのない作品。原作は斎藤淳夫の児童文学「冒険者たち ガンバと十五匹の仲間」です。「グリックの冒険」から始まる三部作の2作目ですが、当時わたしはこれらの原作を読んじゃうくらいガンバにいれあげてました。
アニメは白イタチに襲われた島のネズミたちを助けるために、ガンバと仲間のネズミたちが島をめざして旅をする話ですが、旅の仲間は7匹。主人公ガンバ、力持ちヨイショ、ひねくれ者イカサマ、この3匹が意地っ張りでケンカしながら話は進みます。その他に食いしん坊ボーボ、医者で詩人で酔っ払いのシジン、「博士」役のガクシャ、島から助けを求めてやってきたチビの忠太。アニメはヒーロー・チームを16匹から7匹に整理しましたが、このうち3匹がリーダーになりたがって対立する構図はめずらしい。
あらすじと7の数字でわかるように、元ネタは映画「七人の侍」です。原作の計16匹てのは、いくらなんでも長編をささえるヒーロー・チームとしては多すぎる。キャラがたたない、というやつですね。小説版最大の欠点であり、原作者もここは自覚していました。ヒーロー・チームのお話は大きなストーリーを進めるだけじゃなくて、チーム内部の抗争と和解がなけりゃ。それにはそれぞれのキャラクターを細かく書き込んでいかなきゃいけないんで、16匹はムリ。7匹というのはぎりぎりの数字じゃないでしょうか。
「ガンバの冒険」のキャラクター書き込みは、連続TVアニメだからこそ可能でした。元祖「七人の侍」よりよくできてます。「七人の侍」では三船敏郎の乱暴者・菊千代、木村功の若い勝四郎、宮口精二の剣の達人・久蔵、リーダーの勘兵衛はいいとして、残りの地味な3人は整理してひとりにすることも可能だった(そんなこと誰も言いませんけど)。そして登場人物がみんな大人すぎて、菊千代のエピソード以外、内部の対立があまりなさすぎた(まあ映画でそんなことまで描いてたら、207分じゃ終わりませんわね)。
映画「七人の侍」(1954年)はなぜ7人なのか。野武士集団に対抗するには7人は必要だと志村喬の勘兵衛が発言してますが、確かにひとつはそのとおりなんでしょうけど、もうひとつは「7」がカッコイイ数字だったからじゃないか。「八人の侍」「六人の侍」より7のほうがいいような気が。
石森章太郎「サイボーグ009」(1964年)も実はタイトル先行の作品じゃないかなあ。米沢嘉博は野球の9人からの連想という説ですが、それは違うでしょ。単に「9」がカッコヨク思えたのと、世界中から戦士を集めてみたかったから。ただ、このヒーロー・チームも人数多すぎました。
主人公009とヒロイン003は別として、ニヒルでデキる002と004、無口な005と008、コメディ・リリーフの006と007(007は中年男でしたが、アニメ版では子供にされちゃいました)。すべて2人ずつキャラかぶってますから、もっと少なくてよかった。さらにいうなら赤ん坊の001とギルモア博士もひとりに整理できます。ギルモア博士なんか、後半001を抱っこしてるだけですしね。
石森章太郎というか、スタジオゼロ企画のTVアニメ「レインボー戦隊ロビン」(1966年)は人間はロビンだけで、他の6人は彼を育てたロボットだからちょっと集団ヒーローとはいえないか。主人公・ロビン、看護婦ロボットでヒロインのリリ、ガンマンのウルフ、力持ちのベンケイ、ロケット型ロボットのペガサス、「博士」役の教授、ネコ型ロボットのベル。教授とベルはコメディ・リリーフも担当。
少し整理されてきました。博士役でかつお笑い担当というふうに兼務も始めてます。
「ウルトラマン」(1966年)の科学特捜隊も一応はヒーロー・チーム。これはいかにもシンプルな構成で、主人公・ウルトラマンのハヤタ、ヒロインのフジ・アキコ、隊長ムラマツ、お笑い担当イデとアラシ。チーム内部に対立はありません。
これまでのベストと考えられてきたヒーロー・チームは、1972年の「科学忍者隊ガッチャマン」で有名になり、1975年戦隊ヒーローモノ第1作「秘密戦隊ゴレンジャー」でも踏襲された組み合わせ(ただこれにも先行作品があるんですけどね)。
以下次回。
Comments
貴重な証言ありがとうございます。七人の小人→七人の侍説は笑いました。ズッコケる小人っておとぼけ(Dopy)のことですか。七福神は案外いい線かもしれません。キリスト教にも7にからむ言葉として七大天使とかがあるらしいですし。
Posted by: 漫棚通信 | November 10, 2004 12:36 AM
009の野球説、ぼくも疑問に思う方です。石ノ森は野球はあまり関心が無かった。後に、アーティスト・リーグが出来るとプロダクションごとにチームが出来ましたが…。
マンガ家入門では、説明しやすいということから、そういった感じを受けます。
『七人の侍』、ぼくの珍説は、黒澤はディズニーの『白雪姫』を見ていた説!一人ズッコケる小人が出ますね、あれって三船じゃないかな?志村喬の役は…などと考えてみると、だんだんそんな気がしたりして(笑)
七福神じゃないでしょうし。
Posted by: 長谷邦夫 | November 09, 2004 10:16 PM
コメントありがとございます。実を言いますとマンガ家の自伝は信用ならんということを肝に銘じております上に、わたしが野球がキライということもありまして、野球説はやっぱりうーむです。作者の言うことを信用せずに何を根拠に、と言われればそのとおりなんですけど。
Posted by: 漫棚通信 | November 08, 2004 08:55 PM
私は2ちゃんねるで知りました・・・。たまには2ちゃんねるも役に立つものです。もちろんあとで文庫で復刻された「マンガ家入門」を読んで確認しました。戦後日本における「野球」の担った意味の大きさをマンガの方面から再認識させられる(これは夏目さんがもうすでに研究されていますが)印象的なエピソードですね。しかし「世界中から戦士を集めてみたかった」説も妥当な見解だと思います。「各戦士に民族を背負わせる」ことと「世界中から集まる=国連イメージ」が背景にあることも夏目さんか誰かが言ってました。サイボーグ009は先行研究が豊富で、新たに付け加えて言うことがほとんど残ってないですね。
Posted by: ifiwereabell | November 07, 2004 11:23 PM
ご指摘感謝です。どこかしら、と探してみたら、マンガで描いたストーリマンガの作り方の部分でした。読んだはずなのに忘れてるものです。
Posted by: 漫棚通信 | November 07, 2004 10:53 PM
「サイボーグ009」は野球をヒントに思いついたと、作者自ら語っています。
ソースは「石ノ森章太郎のマンガ家入門」
Posted by: 通りすがり | November 07, 2004 07:01 PM