マンガの中の中国人
「ケロロ軍曹」がアニメ化されたとき、地球人を表す「ポコペン人」がアニメ版で「ペコポン人」に修正されたのはすでに有名な話。これでポコペンが中国人の蔑称であるということを初めて知った人も多かったようです。
ネットなどを見ると、日清戦争時代の「兵隊支那語」によるもので「だめ」の意味の「不〈句多〉本」(ブーコウベン、bugouben)からポコペンに変化したという説(安藤彦太郎「中国語と近代日本」)がよく引用されています。日本兵が中国商人と値切りの交渉をしたときの相手の言葉かららしい。
この言葉、子供の遊びの「ポコペン、ポコペン、だーれがつっついた」で、かなり後年まで残っていましたが、ある程度以上の年令の人間はこれが中国人の蔑称として使われていたことを覚えているはずです。マンガの中でも、先日刊行された伊東章夫「狼少年ケン」(1965年)に、中国人ギャングが登場しますが、丸い帽子に中国服でナイフを投げるといういかにものステレオタイプ。「ぼくはポコペンあるよろし」と自分で名乗ってますが、あとで狼に「このポコペンめ」と鼻にかみつかれてます。ここでのポコペンはあきらかに名前というより蔑称でした。
中国人のセリフとして「…アルネ」「…アルヨ」というしゃべり方もあります。「アルヨ」を使い出したのはゼンジー北京だとかアグネス・チャンだとかおバカな話がでまわってますが、これはもちろん戦前から華僑がしゃべる日本語として実際に使われていた言葉。ある時点から中国人を戯画化するときに使用されだしました。
代表的なのが藤村有弘(元祖・ひょうたん島でガバチョの声やってた人ね)。1950年代後半からの映画の中でいつも「アルネ」「アルヨ」と言いながら怪中国人を演じてましたが、こういうひとりの役者がけっこうイメージを作っちゃうんですね。多くのマンガのキャラクターが演じていたのは「中国人のマネ」ではなく、「中国人をマネする藤村有弘のマネ」でした。「サイボーグ009」(1964年)の中国人006は登場したとたん「はらへったあるなあ」「ああ はたらけどはたらけどわがくらしらくにならざり…」「じっと手をみる」「よごれとるあるな」
しかし、実際の中国の生活を描くマンガにはこういうステレオタイプは登場しません。上田トシコ(当時はとしこ)「フイチンさん」(1957年〜1962年)は登場人物のほとんどが中国人で、しゃべってるのは中国語のはず。当然「アルヨ」なんて言葉は出てきません。かれらは大家の使用人であったり、街の物売りであったり、女学生であったり。普通の人々でした。
中国人といえば一時、娯楽作品内では全員カンフー・マスターなんてことがありました。マンガでは、梶原一騎・つのだじろうの「虹を呼ぶ拳」が1969年、「空手バカ一代」が1971年から連載開始されてましたが、後者は翌年には影丸譲也にタッチ。ここで中国人はやられ役か老師でした。
中国人がカッコよくなったのはいつからか。これはもう、間違いなく1973年ブルース・リーの「燃えよドラゴン」公開からです。このときのカンフー・ブームったらものすごいもので、どいつもこいつもアチャーオチョーと言いながらヌンチャク振り回してました。
カッコいい中国人は映画先行で、続いてジャッキー・チェンの「酔拳」の日本公開が1979年。ジョン・ローンの「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」の日本公開が1986年。映像作品が先行してブームが起こり、その国のイメージが変わっていくというのは今の韓流ブームに似てますね。
マンガの中でのカッコいい中国人といえば、吉田秋生「BANANA FISH」(1985年〜1994年)でしょうか。でも華僑の大物=黒幕か、ストリート・ギャング。三宅乱丈「ペット」の中国人もそう。そろそろマンガにもフツーの中国人が登場してもいいんじゃないかしら。ってもう出てるのかな。
Comments
コメントありがとございます。うああ、アメコミの中国人といえばX-MENのメンバーぐらいしか思い浮かびませんでしたが、そうか、フラッシュ・ゴードンのミン皇帝がいました。黄禍論ですね。さらにさかのぼればイエロー・キッド。
Posted by: 漫棚通信 | November 20, 2004 08:47 PM
この話題からは微妙に外れるかもしれませんが、諸星大二郎や皇なつきは、彼らを心の通じる人間として描いていると思います。
Posted by: とおる | November 20, 2004 02:32 PM
それは日本のマンガに限った問題ではないと思います。欧米でも、中国人といえばフー・マンチュー、などという人はまだまだいるのでは。マンガや映画の揺籃期は中国が混乱していた時代と重なりますから、そのころのイメージがいまだに尾を引いているのかもしれませんね。
Posted by: とおる | November 20, 2004 02:27 PM