伊東章夫の「狼少年ケン」
マンガとアニメのメディアミックスは1963年TVアニメ「鉄腕アトム」の放映開始に始まりました。すでに人気作品であった雑誌版アトム、爆発的人気となったTVアニメ版アトム、番組を提供した明治製菓の菓子、アトムのおもちゃ、アトムのイラストをつけた文具などなどマーチャンダイジングもいっぱい。マンガとしてもアトムの単行本はそれまでにも1956年〜1957年の光文社版、1958年〜1960年の光文社・手塚治虫漫画全集版がありましたが、人気を得たのはTV放映後の1964年から刊行が始まった光文社・カッパコミクス版アトムでしょう。
日本TVアニメ黎明期1963年に開始された子供向けアニメは以下のとおり。
(1)鉄腕アトム
(2)鉄人28号
(3)エイトマン
(4)狼少年ケン
(5)シスコン王子(人形アニメ)
このうちアトムと鉄人は、もちろんすでに雑誌「少年」連載されていた人気作品をアニメ化したもので、マンガの人気あってこその作品。
エイトマンは少年マガジン連載開始が1963年4月、TV放映開始が1963年11月でマンガが先行していますが、企画自体がマンガとアニメを同時進行させる前提で開始されており、もっともメディアミックスらしい作品でした。桑田二郎(当時は次郎)はマンガを描いていただけでなく、アニメのキャラクターデザインも兼ねていたことになります。
シスコン王子はタイトルからわかるように、シスコ製菓のシスコーンを売るための企画。藤子不二雄がマンガ版を「少年」に描いていました。TV用脚本にも参加していたらしい。
「狼少年ケン」はアニメの老舗・東映動画が初めてTVに進出したもの。あくまでアニメオリジナルの企画で、この点が他とは違います。スポンサーはアトムの明治製菓、鉄人のグリコ、エイトマンの丸美屋に対抗して森永製菓でした。東映のTVアニメはこの後、「少年忍者 風のフジ丸」「宇宙パトロール ホッパ(のちに「パトロール隊 宇宙っ子ジュン」に改題)」「ハッスルパンチ」と続き、フジ丸をのぞいて、やっぱりアニメオリジナルが多い。フジ丸の原作は白土三平の「忍者旋風」でしたが、まったく違う作品になってましたね。
「狼少年ケン」といえば最近、SMAPの草なぎ剛が出てるTVCMで主題歌が流れてるんでびっくりしましたが、先日、「ぼくら」に連載されていたマンガ版「狼少年ケン」が発売されました。作者は伊東章夫。「漫画少年」1954年2月号で、松本零士(当時は松本晟)が「蜜蜂の冒険」で長編漫画新人王をとったとき、短編漫画新人賞をとったのが伊東章夫。今も学習マンガなどで活躍中です。
本人の文章によると、新人賞をとった当時は16歳で、金沢の中学校を卒業して印刷所に勤めていたとき。賞金二千円と記念品の時計が貰えるはずだったそうですが、時計は壊れて動かない安物のめざまし時計。賞金は催促しても送ってこなかったそうです。「漫画少年」はすでに末期でした。
「狼少年ケン」は1963年11月より3年間放映されました。原作マンガは存在しません。この伊東章夫版はすでにアニメ人気が定着した1964年6月号から講談社「ぼくら」に連載されたもので、「マンガ化」というべきでしょう。この連載は、わたし記憶にありませんでした。ケンは好きだったんだけどなあ。ジャングルブックとターザンを合体させたアニメ。舞台はアフリカですが、実はオオカミはアフリカには生息してないはずだぞ。
アニメをメインでつくっていたのは月岡貞夫。むちゃくちゃ絵のうまいヒトで、これをしのぐのはまず無理。アニメのスピード感あふれる動きもマンガ版では表現困難。くわえて、連載当時のままの絵だけじゃなく、現在描き直したんじゃないかと思われる絵が混じってるんですねー。これは残念。というわけで、あまりオススメできる本ではありません。
出版元「マンガショップ」のホームページによると
・実は「狼少年ケン」には別作家による描き下ろし版もあるが、表紙に「東映動画制作」「森永製菓提供」と記してあるオフィシャルのコミカライズは、「ぼくら」に連載した本作品だけである。
とあります。以前にわたしは東邦図書出版社版「狼少年ケン」のことを書きました。マンガ家は石川球太とカゴ直利。マンガショップは、東邦図書出版社版は東映に無断で出版された海賊版、パチモンであると言いたいらしい。
東邦図書出版社は貸本マンガの版元。貸本じゃなくて書店販売用のB5版のシリーズがホームランブックスで、「狼少年ケン」のほかにも「伊賀の影丸」や「8マン」の雑誌からの再録、楳図かずおの描き下ろしなどもあったようです。
わたしの手許にある「東邦のまんがホームランブックス 狼少年ケン(4)象牙の湖の巻」には、表紙にこそ東映動画とは書いてありませんが、表紙をめくったトップのタイトルページに、「企画制作・東映動画部、漫画・カゴ直利、原作・大野寛夫(実は月岡貞夫の別名らしい)、提供・森永製菓、放送 NETテレビ他全国テレビ放送中!」とちゃんと書いてあります。この4巻が1964年9月30日発行と記されてますが、実際の発売は7月30日ごろらしい。時期としては「ぼくら」連載と重なってますが、東邦図書出版社版1巻はおそらく「ぼくら」連載より早いようですね。さて、ホントに東邦図書出版社版が海賊版というには、根拠が乏しくないか。
Comments
コメントありがとございます。草なぎのCMと書きましたが、今は別のバージョンになってますね。これシリーズで続くのかしら。
Posted by: 漫棚通信 | November 07, 2004 11:00 PM
初めまして
CMで流れていた曲が狼少年ケンのテーマソングなのでびっくりして、ネット検索しましたら、ここにたどり着きました。勝手ながらTBさせていただきました。
またちょくちょくおジャマさせていただきます。
Posted by: あるぽ | November 07, 2004 01:08 AM