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October 19, 2004

マンガに描かれた水俣病「現代柔侠伝」

 原爆をテーマにしたマンガから、わたしの連想は、最近判決があった水俣病に向かいます。マンガに描かれた水俣病。バロン吉元「現代柔侠伝」の話。

 「柔侠伝」シリーズは、明治から現代までを、四代にわたる柔道家である柳勘九郎、勘太郎、勘一、勘平の人生を描いた大河マンガ。1970年から10年にわたって週刊漫画アクションに連載。特に柳勘一を主人公にした「現代柔侠伝」は、戦後日本現代史をマンガで描く試みでもありました。

 「現代柔侠伝」青春期(14)〜(40)では、柳勘一は熊本の鎮西高校1年生で柔道部員。昭和31(1956)年の5月から10月までが描かれます。「夕凪の街」の翌年であるこの年は、長崎で第2回原水禁世界大会が開かれ、10月には砂川闘争で多数の負傷者が出ました。マンガはこれらの事件を背景に進みます。

 勘一と知り合う色っぽい遊子は17歳。勘一の初エッチの相手だったりします。彼女は万引きや美人局をしており、彼女の3人の兄弟も札付きのワルばかり。勘一が尋ねていくと、彼ら4人はバラックにいっしょに住んでいるのですが、そこに寝たきりの父もいる。兄弟はいやいやながら父親のシモの世話などを交代でしている。

 勘一が興奮しながら観戦している第1回世界柔道選手権大会が開催された昭和31年5月は、水俣病が「公式発見」されたときでもありました。実は3年前には遊子の一家は水俣市に住んでいました。父親はまだまだ頑健だった。しかし体調を崩して中央病院へ行ってもなんでもないと追い返される。その1年後には父親は完全に寝たきりに。近所からは、あいつらに近づいたら骨がまがる病気がうつる、とううわさされるようになります。

 熊本市に引っ越した一家ですが、母親は赤松土建の社長(ヤクザですな)の妾になって家を出て行ってしまう。兄弟4人は復讐を誓い、赤松が県会議員に出馬した選挙の当日、ダイナマイトや銃で殴りこみます。兄弟3人は死に、遊子は裁判で実刑に。

 バロン吉元の筆は寝たきりの父親を容赦なく悲惨に表現します。排便した父親を前に兄弟たちはケンカをし、遊子は泣きながら下着を洗う。描写に救いはありません。彼らのエピソードは勘一の全国大会優勝と交互に描かれ、その対比が読者をよりやりきれなくさせます。日本のマンガは娯楽作品の枠の中で、このようなものも描いてきたのです。

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