楽しい深読み
夏目房之介「マンガの深読み、大人読み」読みました。
この本を読んでる最中、中野晴行「マンガ産業論」のことがずっと頭にうかびっぱなしでした。特に2部「『あしたのジョー』&『巨人の星』徹底分析」。
内容がかぶってるというわけじゃなくて、互いに補完しあってるような関係。この2作とも、テーマのひとつは「なぜ日本人は大人のくせに電車でマンガを読むのか」です。今までは朝日新聞の記事をひいて、日本には手塚治虫がいたから、と答える事が多かった。でも、中野晴行と夏目房之介はこう答えを出してるんじゃないか。「日本には『巨人の星』と『明日のジョー』があったから」
「マンガ産業論」の理解にもとづいて記すと、子供マンガは、読者が成長することで「卒業」していくものでしたが、これを卒業させずにずっと読者のままでいさせた原因のひとつが、少年マガジンの劇画戦略。新しいマンガ=劇画の採用は、新しい読者、すなわち年長読者を取り込んでいく。こののち、日本のマンガ供給者は、読者の成長に合わせたマンガを提供していくシステムを作り上げます。このためにはシステムだけでなく、年長の読者をひきつける優れた作品の存在が必須。夏目房之介はこれを「巨人の星」と「あしたのジョー」であるとしました。
この2作があってこそ、日本マンガは年長読者を取り込むシステムを構築するのに成功した、という考えです。「マンガ産業論」が出版システム・社会構造・読者の行動を探る一方で、「マンガの深読み、大人読み」は作品に注目。作者・編集者へのインタビュー、作品論など。マンガ家だけでなく、編集者にもインタビューしているのは、夏目房之介が作品だけじゃなく、マンガ供給システムに注目しているからです。惜しむらくは、当然あるべきはずの梶原一騎(=高森朝雄)へのインタビューがないっ。夏目房之介もココがいちばんくやしいんじゃないかしら。
『巨人の星』論も『あしたのジョー』論も、このマンガ史観に沿って書かれており、おそらくこの視点で飛雄馬とジョーについて書かれたのは初めてでしょう。とくに後者は、そのボリューム、詳細さにおいて圧倒されます。
1部「マンガ読みの快楽」では戦前マンガと黄表紙の話がいい。というか、わたしの興味がそっち方面にあるもので。
3部「海の向こうから読むマンガ」は、日本のマンガ状況を危機的なものととらえた上での、将来に対する提言です。海外における日本マンガ以外にも、海外マンガの話が多く出てきますが、タイのマンガのことを語っても、唐沢俊一と違ってやさしい視点なのは著者の人柄でしょうか。ここではあまりにドメスティックで自己完結的な日本マンガの現状についての怒りのお言葉。
さて、自分の意見も書いておきます。日本マンガは世界一か。←そんなことはありません。
とか言ってますと「マンガ学への挑戦」の発売が迫ってきました。申し訳ありませんが、ハッキリイッテ、目次を見るとこっちのほうが面白そうだから困ったもんだ。期待してます。
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