ブラック・ジャックと公害病
水俣病を含む公害病も「病」ですから、ブラック・ジャックの出番があります。手塚治虫「ブラック・ジャック」に描かれた公害病。以下、テキストは少年チャンピオン・コミックス版です。
「しずむ女」(4巻)では晦日市市の晦日市病。3つの工場が海に廃液をたれ流し、これが偶然化学反応をおこしたことが原因。魚や貝を食べると膝の関節がおかされる。この話では、発見から10年がたって、工場側が全面的に陳謝して患者のすべての医療費をだす約束をしています。
患者である知恵遅れ(実は公害病による精神症状とブラック・ジャックは主張してます)の少女はもともと海で泳ぐのが得意だった。彼女とブラック・ジャックが出会う話。結局彼女は不自由な足で海に入り、溺れ死んでしまいますが、将来、海がきれいになるだろうという期待を込めたラスト。
「ふたりのピノコ」(10巻)では見須洞市近郊の海辺の漁村。ここでブラック・ジャックが会ったのはピノコそっくりの少女ロミ。彼女は原因不明の肺疾患にかかっていたが、ブラック・ジャックはこれをベリリウム中毒と診断します。10キロ先の槍津花市誰永化学第4工場の工場廃棄物が風に乗って飛んでくるため。
悪役はもみ消しをはかる工場側と、買収された保健所の医者。結局ロミは死んでしまいますが、ラストでは改心した医者が工場を告発するであろうことを予測させて終わり。
「魔女裁判」(17巻)の舞台はイタリア。ミラノ化学工場の爆発事故(これは1976年の現実の事件)で有毒ガス中毒となった妊婦。彼女は目がひとつ、指が3本の奇形児を生む。地元の住民、聖職者、医者は彼女を魔女、子供を悪魔と迫害する。公害というより、宗教的頑迷がテーマですね。ブラック・ジャックは子供に形成外科手術をおこないます。
「望郷」(22巻)。堅山半島沖合いの猫生島、別名要塞島。鉱山・工場の廃液による魚・貝が汚染され、これを食べた猫、ついで人間が死んでいく。訴訟により患者側の全面勝利となりますが、島は廃棄され、死の島となって三年経過。ブラック・ジャックが島を訪れてみると、島にはノラネコがもどっている。海が洗い流してくれたため、汚染は消えていたというオチ。自然の力は偉大だ、とはいうもののあまりに楽天的…
医師としての手塚治虫が、とくに公害病に対して注目していたわけではないようです。むしろ、現代・未来を舞台にお話を考える創作者として、公害を多数ある社会問題のひとつとしてとらえていたにすぎないのかしら。
今回読み直してみると、ブラック・ジャックはそのページ数の少なさ、そしてまぎれもなく子供向けであることもあって、おとぎ話なんだよなあ。だから公害のような、大勢の人間が被害にあい解決に長い年月を要するはずの問題も、あっさり解決されてしまう。手塚マンガというか、子供マンガの長所でもあり、限界でもあります。ただし扱うテーマの多彩さは、手塚治虫ならではです。
Comments
うーむ、ブログの展開を読まれておりましたか。TVアニメ版のブラック・ジャック始まってますねー。ブラック・ジャックがマントをぱっとひるがえし、ばしばしっとかっこよく手術着を着るシーンが見せ場になってます。おいおい仮面ライダーの変身シーンじゃあるまいし、というのがわが家での評判です。
Posted by: 漫棚通信 | October 22, 2004 02:48 PM
「原爆→公害」と連想が進めばブラックジャックですよねえ。次にお書きになるのはブラックジャックじゃないかと思っていたらやっぱり。興味深く読ませていただきました。ブラックジャックにはさらに「原爆」「太平洋における水爆実験」も扱ったものもありますよね。とはいえ、手塚が「特別」それら社会問題に強く関心を寄せていたのではないだろうという点では私も漫棚通信さんの意見に同意します。彼はただ当時において最も話題になっている問題に鋭く敏感に反応していただけかと。だからこそ今、私たちが読むと、ああこのときは交通事故が社会問題になっていたのだなとか、あれこれわかって、まるで昭和の社会史を一覧できるような読みの楽しさがあります。
Posted by: ifiwereabell | October 22, 2004 12:54 AM