「血だるま剣法」と「天才バカボン」
今発売中の「comic 新現実」1号で、みなもと太郎が平田弘史作品に言及してギャグがすごいと語ってます。それに反応して長谷邦夫が、自身のブログで「血だるま剣法」はギャグ・エスカレート構造を持った作品であると発言。一方山上たつひこは、かつて1989年「鬼刃流転」で「血だるま剣法」のパロディを描いています。
わたしは先日のブログで「奇想」と表現しましたが、そうかぁぁぁっ、あれははっきりギャグであると言うべきだったのですね。当代トップの3人のギャグマンガ家たちは「血だるま剣法」を読んでそう考えています。実際に笑えるかどうかは別。要はギャグをつくるのと同じように発想された作品だと。実作者の目は鋭い。
もう一度おさらい。「血だるま剣法」の主人公・幻之介は、まず師範代との稽古で右腕を失う。それでも鬼神のように強いのですが、次に先輩に両足を斬られる。床に臥しているところを、かつて幻之介がけがをさせた師範代候補に発見され、左腕を落とされる。この師範代候補も腕が使えないので口にくわえた刀で斬りつけてます。
四肢をなくした幻之介は、山に住み、あたりを這いずり回りながら、うろこに似た石に胸や腹をこすり続け、ついには腹をうろこ形にして、鍛錬の結果、恐るべきスピードで這いまわれるようになりました(オイオイ)。左右の上腕に小さな刀を結びつけ、木の上や天井に這い登り、そこから落下して人を斬る剣法を開発(コラコラ)。
かつてアニメーションの視覚ギャグでは肉体の破壊があたりまえだった時代があります。トムとジェリーを思い出してください。爆発、変形、歯は折れ、体に穴もあけば、水も漏る。平田弘史は黄金期アニメーションの遠い子孫か?
山上たつひこの「鬼刃流転」では、アンクル・トリスのような体形(このたとえはかえってわかりづらいか)、えーとタマゴみたいな体形の登場人物が斬ったり斬られたり。肉体切断をギャグにするために、いつもの山上キャラと違った造形にしてあります。
主人公・柳左近の師匠は、左近に右腕を斬りおとされる。復讐しようとした師匠は左近に返り討ち。残った手足を斬られちゃいますが、霊草・蛇含草のおかげで体がヘビに変化。口に刀をくわえてヘビの体で斬りかかる。蛇腹剣法の誕生。山上たつひこは、「血だるま剣法」の設定がそのままギャグになりうることを証明しました。
肉体改造をギャグにしたので思い出すのは、赤塚不二夫「天才バカボン」の中でも有名な一篇。恋人が自分をホントに好きかどうか不安な男。もしかしたら彼女は自分の顔だけを愛してるんじゃないか? バカボンのパパにそそのかされた男は、自分を変な顔に改造。目を縦に。鼻の穴を大きく。耳を長く。「これでもまだ愛している!?」「きゃーっ 愛してるわ!?」
ついには当初の目的を忘れてしまって「おもしろいからもっとやろうよ!!」 目玉が飛び出し、コウモリのようなハネで空を飛ぶ怪物になってしまう。長谷邦夫の言うギャグ・エスカレート構造のよい例でしょう。
トムとジェリー、山上たつひこ、赤塚不二夫。平田弘史を彼らと並べて読むことになるとは思わなかった。
Comments
あわあわあわ。コメントありがとうございますう。誤読につきましてはお詫びいたします。朝起きてすぐから「薩摩義士伝」読み直しておりましたら、あんたなにしてんねん、さっさと仕事行かんかいっ、と同居人に追い出されました。
Posted by: 漫棚通信 | October 07, 2004 09:26 AM
ああよかった、誤解されたかと思った。
はい、血だるま剣法=ギャグ漫画、ではありませんよ。
平田先生は後の「薩摩義士伝」などでもイロイロ普通に
ギャグを散りばめられていらっしゃいマス。
「ズバリカイテハイケナイ」の書き文字がズバリその形に
なってるギャグなんて最高じゃないですか。
Posted by: みなもと太郎 | October 07, 2004 03:27 AM
>とおるさま
ごぶさたしてます。みなもと氏は正確には、平田弘史にはギャグの才能があり作品に意識的にギャグを入れていた、と語っていまして、長谷氏は、「血だるま剣法」にはギャグ・エスカレート『構造』がある、と書かれてます。これを「血だるま剣法はギャグマンガである」としてしまうのは、わざと誤読して意訳してるわけで、書いてからちょと反省しております。
Posted by: 漫棚通信 | October 05, 2004 08:55 PM
うわあ。この解釈は目からウロコでした。でも、納得できます。
Posted by: とおる | October 05, 2004 11:20 AM
コメントありがとございます。「血だるま剣法」をギャグマンガであると言い切る方々がいるということが驚きでした。ひるがえって自分の発想はありきたりだなあと。これからもいろいろご教授ください。
Posted by: 漫棚通信 | October 05, 2004 09:20 AM
大変明快に解釈していただけて、発言したカイがあったと思います。みなもとサンの発言には、ぼく自身ビックリしましたが
そうだよネ!と直感で納得出来ました。彼のホモホモが貸本劇画のコマ割りで展開されていたというのも驚きでした。やはり大変な作家ですね。
Posted by: 長谷邦夫 | October 04, 2004 11:43 PM