消費されるキャラクター「二次元美少女論」
吉田正高「二次元美少女論 オタクの女神創造史」はマンガ、アニメ、ゲーム等に登場する美少女の歴史をつづったもの。わたしはマンガ以外のジャンルにうといので、著者の知識量には圧倒されました。
山のように固有名詞が出てきます。とくに同人誌に対して多く言及しているのが新しいところでしょうか。市場をオーバーグラウンドとアンダーグラウンドに分け、互いに影響しながら発展してきたという視点です(アンダーグラウンドに対する著者の定義がないのでわかりにくいのですが、同人誌・OVAの一部・ゲームのうちエロゲーがアンダーグラウンド、それ以外のものがオーバーグラウンドらしいです)。
最初の章に「甲冑少女・パワードスーツ少女・触手」をもってきたところで、たいていの読者はひくでしょう。触手ってあれですよ、うねうねしてて女の子にからみついてエッチな事するヤツ。触手は半裸の甲冑少女とペアに語るべきものなのか? それはあんたが好きなだけやろっ。ギャグで書いたら面白かっただろうに、著者はあくまでマジメです。
以下「メカ美少女(メカと美少女じゃなくて、ロボット美少女)」「美少女パイロット」「格闘美少女」「ヴァーチャル・アイドル」「ゲーセンの美少女」と続きます。どの章も書いてあることは同じで、ひたすら固有名詞を並べてそれぞれの歴史を追っていきます。情報の取捨選択は、どうも著者の心の中というか体の一部というか、そのあたりの反応で決めているようで、マイナーな作品も含めてデータがただ羅列されていきます。
文章は大仰。「このような甲冑娘という表現形式に対する存在意義の高まりは、一般文化を巻き込んだ大きなうねりとなっていく」→ここで言う大きなうねりとは「聖闘士星矢」や「ビックリマン」のことを指します。そうか?
多量の固有名詞を除けば、この厚い本で著者の主張はただひとつ。それぞれのテーマの美少女の流行があり、消費された結果、衰退しつつあると。でもそれは消費されるキャラクターとして、あたりまえのことじゃないのか。
本書のまえがき・あとがきより。
・はなやかな「萌え」美少女が人々の関心を惹きつけ、表面を繕っているその内部では、形骸化が進行しており、二次元美少女表現の空洞化、さらには二次元美少女の消滅すらも目前に迫っている。
・表現様式自体が意識化、自覚化、メタ化の波にのまれ、新たな魅力をもった二次元美少女誕生の機会を減少させているという現状が明らかになった。
要は、最近自分の好きな美少女が減ってきたなーと言いたいようです。
市場というのはいろんなものを限りなく消費し尽くすものでしょう。そして新たな商品を求めて移動していくもの。もし変化しなくなれば文化=市場の沈滞です。わたしの理解では、二次元美少女というキャラクターがどんどん消費されていくのは市場の原理。二次元美少女が文化と同時に商品である限り当然の事であり、それをいまさら言われても。
さらに日本の二次元美少女の市場、これをアンダーグラウンド、オーバーグラウンドの二つに分ける考え方はどうか。たとえばアメリカのアンダーグラウンド・コミックスに限っていえば、暴力・セックスに関する厳密なコミックス・コードがあり、これに対する反発としてコードを無視するcomix(comicsじゃなくてこのように表記しました)が出現してきたという歴史的経過があります。ここでは意識された対立があり、結局その後、コミックス・コードはなし崩しに無視されていきました。
日本の市場ではオーバーグラウンドとアンダーグラウンドに文化的・市場的対立があったわけではなく、すべての新しいものがアンダーグラウンド発祥であったわけでもありません。ただ著作権やセックスに対する規制のゆるさと、消費者の傾向が偏っていただけです。そこでは消費者の好みは先鋭的であったでしょうから(それが著者の言うオーバーグラウンドに反映されるかどうかは別にして)、特殊な趣味を生み出してきました。その意味で同人誌に注目して歴史を語る事は正しいことでしょうが。
結局、この本より知識は得られますが、それ以上の事を望んではいけません。
著者は1969年生まれの大学研究者。自分のコレクションを「吉田コレクション」と誇らしげに書き、「家屋という家族の共同生活空間を蝕んで増殖していったコレクションに関して、長い間静観してくれている両親に」謝辞を述べています。…早く独立したほうが…
Comments
いやあ、そういう数値のような客観的データがちょっとでも出てきたらいいんですけどねえ。そういう本じゃないんですよ。
あと話変わりますが、くらもちふさこは最近作からさかのぼって読んでいくのもいいんじゃないかと。「α」→「天然コケッコー」と2作とも傑作。
Posted by: 漫棚通信 | October 04, 2004 09:24 AM
こんにちは。表題の本は読んでいませんが、二次元美少女は減少しているかという点について、アニメ分野に限って敢えて反証っぽいことを書きます。
著者11才から21才にかけての、1980-1990年、10年間のあいだに930本ものアニメーションが作られたという客観的事実があります。しかもその多くが現在のように漫画が原作にあるようなものではなく、オリジナルでした。「消費されるキャラクター」の質はともかく供給量は多かったのです。この本がそのような分析をしているのかどうか知りませんが、二次元美少女が減少してきたと言えないこともないのかな、と。
かく言う私は8マンのサチ子さんに萌え萌えです。ほるぷ平和漫画シリーズについて、いつの日か、ぜひ語ってください。
Posted by: ifiwereabell | October 03, 2004 06:18 PM