「PLUTO」の世界設定
しつこく「PLUTO」について。
実はわたしは、「PLUTO」の読者は「地上最大のロボット」をすでに知っているか今後読むだろうと考えて、以前の記事を書きました。ところがネットの感想などを読むと、どうも「PLUTO」の多くの読者が、オリジナルの「地上最大のロボット」を読んでいないし、読むつもりもないらしい。
たとえば、わたしの同居人などは「PLUTO」はミステリ的にすごく面白い、ただし、オリジナルを読むつもりはないと、断言しております(その理由は、わたしがあえてオススメしていない、ということもあるんですが)。読めへんのか。いやや、こんだけ面白いのに、読んでまうとこれからの楽しみがなくなるやん。
これもひとつの見識ではあります。テレビや映画とかアニメでもそうですが、読者・観客はオリジナルをあえて読まないひとのほうが多いんですね。というか、それが一般的。
さて、彼らには、手塚治虫と浦沢直樹の合作であるアトム世界の設定はどのように感じられるのでしょう。手塚マンガに慣れているわたしですが、浦沢直樹の目を通したアトム世界の設定は、あらためて変わってるなあと再確認。
・世界は第39次中央アジア紛争を経て、現在は平和らしい。39次というからには、近未来というよりけっこうな未来でしょう。
・都市は高層ビルの間をハイウェイが走る「古典的」未来社会。デュッセルドルフの旧市街再開発地区は廃虚だが、スラムではない。イスタンブール旧市街もそれなりの落ちついた街。
・人間とロボットがあたりまえに同居する世界。
・なぜか黒人は登場していない。
・ロボットは人間とほとんど変わらない外見を得ている。しかし、人間はロボットを、なんとはなしに、人間じゃないと認識できる。
・明らかに機械と解る外見を持ったロボットもいる。
・ロボットは人間と同じ職場に就職している。
・ロボットの上司・部下・同僚は人間であったりする。
・ロボットを殺す(破壊する)ことは罪である。
・ロボットも犯罪者として処罰される。
すでにロボットは単なる機械ではなく、社会的にも義務と権利を持っています。おそらく世界SFのなかでもめずらしい設定では。
・ロボットは結婚できる。
・ロボットは一家を持ち、世帯を形成できる。
・ロボットは養子をむかえることができる。
アトムのようなロボット一家、というのは、あらためて読むとすごく変わった設定のように思いません?
作品内で謎なのは、格闘ロボット・ブランドの5人の養子たちです。彼らは人間か、ロボットか。食事にサラダなどが出ていることを考えると、人間ということになるのですが、オリジナル・アトムの世界でもロボットの子が人間というのはなかったような。この世界の特殊設定か。
・ロボットは感情を持ち、夢を見る。
・ロボットはロボット法13条により、人間に危害を加えることができない。
・ただし、上記に縛られない、異常なロボットも存在する。
・ロボットは人間から尊敬されたり、逆に差別されたり。人間とロボットは複雑な関係にある。
このうちほとんどが手塚治虫がつくったオリジナル設定です。1950年代初期、想定されていた読者はせいぜい小学生まで。ロボットの存在を人種差別のアナロジーとしてとらえるこの設定は、読者レベルから考えて、あまりに難しく複雑でした。でも読者はこれについていってたんだよなあ。
おそらく「PLUTO」の今後の面白さの中心は、ストーリー以上にこのアトム世界の設定にあり、と予想しますがいかが。
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