浦沢直樹「PLUTO」:あなたのアトムわたしのアトム
浦沢直樹「PLUTO」1巻発売! これぞ21世紀最大の問題作! 稀代のストーリーテラーによる、手塚マンガリメイク! よみがえるアトムを目撃せよ!
広告コピーふうに書いてみました。ただこの「PLUTO」を読んで何を考えるかというと、なぜ「地上最大のロボット」なのか、という点。
手塚治虫自身はアトムに対する自分のアンビバレントな気持ちを繰り返し書いてきました。しかし、やはり「鉄腕アトム」こそ世間の考える手塚マンガの代表作。「少年」連載だけでも1951年から1968年までなんと17年間続いたんですからね。これだけ長い連載だと、読者の世代によってアトムに対する思い入れも違ってきます。
「創」2004年7月号の浦沢直樹インタビューによると、浦沢直樹が「地上最大のロボット」を読んだのが5〜6歳。自分の頭の中で作品が育っていって「地上最大のマンガ」になったと語っています。いずれにしろ1960年生まれの浦沢直樹は、この時期のアトムをすごく面白いと思っていた。
でも違うんだよなあ。アトムは1950年代のものこそ面白いんだよー。泣ける話がいっぱいなんだよー。「海ヘビ島」も「電光人間」も涙なくして読めません。アトムは半ズボンで小学校の制服着てたりするくせに、すぐ裸になりたがるし、ブーツじゃなくてキャバサンやらスリッパやらわからんもの履いて足を見せびらかして、男のくせに色気ふりまいてました。
「地上最大のロボット」は、1964年から1965年というアトムとしては末期に描かれたもの。すでに手塚治虫の絵は1950年代の色気を失ってしまっていた時期。ストーリーも「ロボイド」などと同様に、横山光輝の複数忍者対決モノ「伊賀の影丸」の影響下にあることは明らかで、複数のロボットを対決させて派手さを求めていた。そして何より、アトムが10万馬力から100万馬力に改造されたのがこのエピソード。「ドラゴンボール」に先行するように、スペックの数値が強さを決定する。かつて知恵で力を制していたアトムはどうした。
「地上最大のロボット」は、一般的人気は高いものの、アトムのエピソードの中ではスケールだけを大きく見せた失敗作と考えます。でも、だからこそ浦沢直樹がどういうふうに料理してくれるかが楽しみ。
「PLUTO」は人間とロボットが同居する世界。ロボットは知能を持ち、感情を持ち、結婚もするし、レクター博士みたいな異常なヤツもいる。いまさらながらアトムって変わった設定でしたね。このアトム世界をさまようのはユーロ連邦警察・ゲジヒト刑事。かっこいいぞ。
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