「マンガ世界の歩き方」マンガについての本とは思わないように
山辺健史「マンガ世界の歩き方」読み終わりました。紹介にちょと困る本。けなしてる評の方が多いみたいなんで、わたしは擁護しておきましょう。
各章は以下のとおり。百円雑誌屋を知ってるかい、コミックマーケットの暑い夏、いまのマンガ世界を歩いてみよう、在日外国人が考える日本のマンガ文化って?、発見!マンガをとりまく「ぜいたく」な状況、日本貸本屋紀行なのだ、トキワ荘外伝・森安なおやを追いかけて。
著者にとってはじめての取材・文章だそうですが、まず、マンガに対する基本的知識がない。そりゃま、エンジンの構造を知らなくても自動車の絵は描けるでしょうけど。次に取材がウスい。路上百円雑誌屋の元締めはきっとヤの人だと思われますが、著者はあえてノータッチ。コミケで話を聞いたのは初日に5〜6人、3日目に1人だけ。在日外国人の座談会を開いても、マンガについての自分の考えがないものだから話は全く広がりません。
そして考察なし。取材した題材を放り出すだけ。せっかく元少年マガジン編集長・内田勝にインタビューして、マンガ専門学校を取材して、マンガの今がどうわかったのか。何か書いてくれよう。
この本は岩波ジュニア新書ですから子供向けですが、著者があまりに素人すぎて、読者の子供たちと同レベル。書影の撮影もバックに板(どこかの廊下の上?)が写りこんでいて手作り感いっぱいのデキ。まるで中高生の夏休み自由研究みたいです。
考えるに、この本はマンガのことを書いたルポじゃなくて、何も知らない子供に取材の仕方、ルポルタージュの書き方を教えるための本じゃないでしょうか。そしてここはもっとこうすれば、と子供たちに思わせる反面教師。結局この本はマンガについての本ではありません。マンガは単なる素材。
章を追うごとに著者はちょっとずつ成長してます。取材を通して取材者としてレベルがあがっていくのがわかりますが、残念ながらマンガそのものやマンガを取巻く環境のことを考えてるわけじゃないので、マンガ読みとしてのレベルはあがりません。マンガ図書館やマンガ貸本屋を日本マンガの「ぜいたく」「いいシステム」と考えるのは、マンガの将来について危機感を持っている読者とあまりに乖離しています。
ただし著者が少なくとも善人であることは間違いないようです。誰をもけなすことなく、マジメ。好青年なんだろうなあ。
さあ、誉めたぞ。
Comments
そうですね。批評はやはり作品のいいところを見つけるということが第一だとぼくも思います。けなすのは、カンタンですからね。ところが、これが実行できないのもぼくの悪いところ。
『スチームボーイ』に悪口ばかり。(汗)で、罪滅ぼしに『大砲の街』、買ってきて再々見し、褒めまくったのですが、結果、また『スチーム~』の悪口みたいになってしまう。もっと芸を磨けよトシなんだろう…と反省してます。
Posted by: 長谷邦夫 | September 09, 2004 01:36 AM
コメントありがとうございます。ブログ愛読させていただいてます。書評や感想文は誉めるのがむずかしくって、マイナス評価は簡単、ちょっとしたアラを探すのはもっとカンタン。いつもなんとか誉めたいものだと思ってるんですけど、これがなかなか、カンタンなほうに流れてしまって…
Posted by: 漫棚通信 | September 08, 2004 07:51 PM
けなした長谷です。(笑)まさに貴兄のお書きになったとうりですね。『マンガ世界を楽しみながらルポライターになれる本』とでも編集部が読者にコメントしておいてくれれば、そんなものかも~とジュニアたちは思ったカモ。やっぱりカモですね。それより今必要なのは『岩波世界の歩き方』デスね。
Posted by: 長谷邦夫 | September 08, 2004 11:29 AM