複雑な愛の形「王様ランチ」
三宅乱丈の短編集「王様ランチ」。収録のほとんどは「ペット」以前の旧作です。圧巻は表題作の「王様ランチ」と「ある日突然超能力者」。前者がスピリッツ、後者がスピリッツ増刊時代のIKKIに2001年に掲載されたものです。音声会話と内面描写を同時に書いていくという「ペット」での手法は、「ある日突然超能力者」で開発されたんだなあと確認できます。
もうひとつの「王様ランチ」、これがすごい。
主人公の高校生・キヨ(♂)はいとこのあーちゃん(♂)にシフォンケーキを顔に押しつけてもらいたい。でもって、そのシフォンケーキはケーキ屋のバイト・中山さん(♀)から売ってもらったものじゃないとダメ。キヨとあーちゃんは、中山さんに手作り弁当を作ってもらい、それを顔にぐちゃぐちゃ押しつける「顔面弁当」するためにいろいろ画策し始めます。
キヨはもちろん肉体的快楽を求めているんですが、自分ひとりで「顔面シフォン」するよりも、あーちゃんにしてもらいたい。自慰よりも恋人とのセックスがいいのが当たり前で、これはキヨのあーちゃんに対する愛です。そしてクライマックスの「顔面弁当」で、キヨは勃ちますし、あーちゃんもキヨに対する愛を確認します。いじめ、いじめられる形の愛。しかも男同士。こういうのもボーイズラブか。
ここで複雑なのが中山さんの立場。キヨは彼女に「一目ボレ」してるのに彼女が売ってくれたケーキで「顔面シフォン」してしまうのです。そして彼女の弁当をなんとか手に入れようと嘘をつく。彼女のケーキや弁当じゃなくちゃダメなんです。彼女を愛しながらだます、そのことで彼女を虐待している。この作品でノーマルなのは中山さんだけですが、将来、彼女もこの加虐・被虐の関係に意識的に参加するのか。それとも待つのは破滅か。
男ふたりのいじめの形の愛に女ひとりが参加する。これはつかこうへい「蒲田行進曲」の構図と同じですが、これよりさらにエロチック。わたしにはよくわからん世界だなあ。三宅さんエッチ。
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