失われた月「ムーン・ロスト」
星野之宣「ムーン・ロスト」読了。どんな話かというと、ムーンがロストされるんですね。
中心部分ががSFアイデアでできてるお話なので、ネタバレせずには書けません。というわけで、まだ読んでない人はご遠慮を。
アイデアのその1は「月が突然消滅したら、地球はどうなるか」です。月による潮汐力がなくなって大洪水になるのはもちろん、なんとポール・シフトがあたりまえにおこり、気象はまったく安定しなくなるんだそうです。いや知らなんだ(ホラ話にしてもいかにもありそう)。というわけで、この話の中では北極は北米大陸の南に移動、アメリカ合衆国は厳寒の地になってしまいます。
アイデアその2「月の消滅のさせ方」。小惑星ぶつけて月を壊しても、質量としては残るので消滅したことにはならない。ならどうするか。小型のブラックホールを人工的に作って、月を飲み込ませてしまうんですね。これなら突然消滅しちゃいます。で、このブラックホールの作り方ですが。ああ、説明読んでもわからんっ。ともかくスーパーカミオカンデとかスプリング8みたいなことをするらしい。こんな極悪なことをするのは悪の宇宙人じゃなくて(そういうゴアとかゴリみたいなのは出てきません)、マッド・サイエンティスト風の「博士」です。事故なんですけどね。
上記1・2のアイデアがともかくすごくて、ディザスター映画1本できちゃうんですが、星野之宣の場合、ここまでは単なるプロローグ。
アイデアその3「重力を使った新しい輸送方法」。この人工ブラックホールで重力を発生させ、大きなものをひっぱります。何をどうやってひっぱるかがお話のメイン。ここからはご自分で読んでください。伝奇方面に浮気していた星野之宣、お得意のハードSFの傑作。
欠点はもちろんあって、「まぎれこんだスパイはどいつだ」というサスペンス(アリステア・マクリーン以来の定番ネタ)がまったくきいてなかったり、壊れかけの宇宙船で火星から月軌道までどうやって来てんや、というのもありますが、些細なこと。こんなスケールのでかいオリジナルアイデアのストーリーをきっちりした絵で読ませてくれることに感謝。
日本人は登場しません。悪役は陰謀をめぐらすわがまま超大国USA。それに対抗する善のグループは、ヨーロッパ、ロシア、イラク(!)です。
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