「ハッピー・マニア」の設定を読む(その2)
(前回からの続きです)
留学後のタカハシは3巻12話(1996年9月号)で一時帰国、4巻16話(1997年1月号)で再渡米、4巻20話(1997年5月号)でまた帰国(このとき21歳)、5巻21話(1997年7月号)ではまたまたアメリカに行って、5巻23話(1997年9月号)でまたまた帰国。なんてイイカゲンなんだっ。お金持ちだから飛行機代なんかどうでもいいのね。このあと、シゲタの家にごあいさつ→タカハシの家にごあいさつという展開になります。
タカハシの家族の設定は細かくて、一族の年齢・職業がいろいろ書かれてますが省略。
タカハシは日記をつけてるので日時が計算しやすい。これによるとシゲタとの結婚話が破綻したのが1996年9月27日。10巻50話(2000年3月号)で22歳、大学休学中。11巻57話では大学中退しちゃって就職。大学中退にはいろいろ考えがおありなんでしょうが、まだまだ復学できる年齢なんだけどなあ。
○フクちゃんのこと
1巻1話では「フクダ」さんでした。1巻4話で「福永」さんに改名。2巻5話でやっと年齢が29歳でフルネームが「福永ヒロミ」であることがわかります。9巻45話では32歳。専門学校の入学金も自分で出した苦労人。
フクちゃんは「ハッピー・マニア」の中では恋愛志向のシゲタと対照的で、恋多き女ではありながら結婚を具現化した存在。最初のほうの男・松江とは一時結婚が決まってました。シゲタのケガを見て「結婚式までに治るかな…」とか言ってますし。彼女が藤堂秀樹との結婚にまい進するのを見ていると、この作品のテーマが「恋愛」ではなく、「恋愛と結婚」だったのがよくわかります。
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こう見ると「ハッピー・マニア」のような長期連載作品は、設定が豊富に複雑になっていきますね。作品を描きながらいろいろ継ぎ足していったものでしょうから、テキトーなのも多い。でも矛盾しながらそれなりのところに落ち着くのが名作たるもの。ストーリーや設定のぶれを楽しみながら読むのも連載マンガなればこそですね。
設定と同様にストーリーも連載中に変化していきます。「ハッピー・マニア」は、6巻のタカハシ家訪問前後で印象がかなり違ったものになりました。前半は「やってから考える」おバカな女性の、お気楽コメディーでした。作者も「人生の反面教師としてぜひお手許に」などと言ってましたし。しかし恋愛を繰り返すうち、主人公の心理描写の比率が増えていきます。シゲタは行動するより考えるようになり、こうなるとお話は内省的になり、現代の、都会の、独身の、女性の、孤独な、内面を語る作品に変化。
最初のころの展開はタカハシの比重が高く、いかに彼とハッピーエンディングするかというのを作者も考えていたはずですが、6巻にタカハシをめぐるライバル・貴子が登場してからさらに深刻な展開となりました。最初登場したときの貴子はそれなりにカワイイ女の子(タカハシより1歳下)だったのですが、どんどん肥満し、ブスに。この変化はキャラクターの重要度の上昇によるものです。登場時はちょっとした脇役のはずだった彼女は、結局最終回まで出演し、タカハシの妻という「ラスボス」になりました。
なぜ彼女がここまで敵として大きくなったかというと、実は、シゲタと貴子の違いはほんの少しであることに作者が気づいたからです。タカハシと結婚することを望み、ウソをつき、陰謀をはりめぐらせる。自分の欲望に忠実という意味では貴子のほうが純粋ともいえるでしょう。恋愛の結果としての結婚を求め続けるならシゲタも貴子と同じことをするかもしれない。潔癖なシゲタは貴子と同じにはなりたくない。貴子との戦いを通じて、シゲタは恋愛を結婚より上位に置く恋愛至上主義者となりました。
ラストシーンでシゲタは自身の結婚式の場にいながら、さらなる恋愛を求めます。結婚でもなく、仕事でもなく、恋愛を。わたしは、これは安野モヨコの少女マンガ宣言なんじゃないかと思ってるんですが、いかがでしょうか。
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