オスカルの初エッチ
井上雄彦「バガボンド」は、佐々木小次郎を聾唖にした時点で全く新しい作品と化しました。国民文学とまでいわれた吉川英治版「宮本武蔵」←井上作品はとっくにこれを現代的面白さで越えています。しかし、宮本武蔵は史実には晩年ちらりと登場するだけの謎の人物で、武蔵をあそこまで創造したのはやっぱり吉川英治なんですなあ。以後のすべての「武蔵」は二番煎じなわけで、オリジナルは強い。
昨年武蔵が大河ドラマになったし、バガボンドは売れているしで、吉川英治版「宮本武蔵」読破に挑戦した人も多かったでしょうが、読み通せました? 挫折した人の死屍累々じゃないのかなあ。ありゃけっして面白いモノじゃないです。読めるのは一乗寺下り松の吉岡一門との決闘まで。原型を八犬伝までさかのぼれる古いタイプの大衆小説で、偶然と因果が支配する世界です。とくに敵役・小次郎の造形は単にイヤな奴。美形の悪役という観念の薄かった時代の話であります。
吉川「武蔵」では主人公達は性的に無垢なのでヘンな展開となります。武蔵がえんえんと童貞なのはともかく、お通さん、あんたずっと処女守り通してるけど、いったいいくつやねん。武蔵と会うのをひたすら待ってるけど、それでええんか。結局捨てられるんやで。
お通さんは生年不詳の人物なんでまだいいんですが、生年がはっきりしてる「ベルばら」のオスカルはさらにツライ。マリー・アントワネットと同い年ですから1755年生まれ。アンドレとの初エッチは、バスティーユ陥落の直前1789年、34歳でいらっしゃいます。うーむ微妙な年齢ですなあ。ストイックだったのね。というわけで、戦前大衆小説の主人公と、1970年代前半の少女マンガの主人公は同じようなセックス規範のもとで生きていたというお話でした。
オスカルのセックスといえば、わたしの同居人が子供時代、ばあちゃんにねだって映画版「ベルばら」を映画館にいっしょに見に行ったとき、なんとオスカルが鏡の前で自分のオッパイを揉むシーンが。ばあちゃんともどもえらく気まずい思いをしたそうで、現在もわが家では「ベルばら」は禁句になっております。
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