裏トキワ荘物語
録画してあったマンガ夜話「まんが道」の回、やっと見ました。長谷邦夫「漫画に愛を叫んだ男たち」にからめて「裏トキワ荘」という言葉が発明されてましたね。そこにいるはずなのになぜか描かれない長谷と並んで、裏トキワ荘の代表的人物ビッグ2は、寺田ヒロオの友人・棚下照生と、赤塚不二夫の友人・つげ義春でしょう。このふたりを登場させた映画「トキワ荘の青春」はちゃんと表と裏に目配りしてるわけで、エライ。
このうち棚下照生が、いかにも裏トキワ荘という文章を書いてますので紹介しておきます(棚下照生ってだれ、という人はまずコチラからどうぞ)。
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寺田が上京して暫くすると、投稿の常連だった少年少女が、寺田を慕って次々に上京する。上京した彼等は、寺田の居る何とも薄汚いアパートに移り住んだ。
少年も彼等と対面した。
「石森でーす」
少年はこの男を、まるでジャガイモみたいな奴だなと、鼻で笑った。次に
「藤子です、よろしく」
ヘチマとナスビが言った。
「二人で一作を描きます」
と続けた。何のことはない二人で一人前か。
「エー、赤塚」
握りメシが動いたかと思った。
色んな奴がいた。カボチャやガンモドキ、乾いたウンコやお玉杓子、どういう訳か消防ポンプまでしゃしゃり出てきた。
だが、どれもこれも、漫画を描くのを不良行為とは思っていないらしい雰囲気の発散がそこにあった。
少年は場違いの自分を感じていた。
(俺のいる所ではない)
破滅型の性格を持つ少年は、寺田とその仲間に溶けこめず、また酒を呑み、描き、酒を呑む生活に戻る。
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寺田ヒロオ編「『漫画少年』史」(1981年)に寄せられた文章の一部です。明るいまんが道を歩めなかったマンガ家がここにもいます。
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