マンガの中の中東紛争
アメコミ業界じゃスーパーヒーローが中東になぐり込みをかけるかどうかで議論になっているそうです。現代マンガはすでにこういうストレートな表現はしなくなってるはずなんですが、さすがアメリカ。でも日本にも小林よしのりなんてのがいるからなあ。
日本マンガでパレスチナ問題、中東紛争に触れられることはほとんどありませんでした。なんせあそこは遠すぎる。しかも複雑すぎる。極東の、島国の、日本人が口を出すにはあまりに難しい存在です。でも手塚治虫だけは題材にするんだ。
1966年発表「鉄腕アトム 青騎士の巻」で、青騎士はロボットだけの国ロボタニアを作ろうとします。そこで青騎士が先例に出すのがイスラエル。「昔人間の中で一番ふしあわせだったユダヤ人が……」「力をあわせてイスラエルの国を作ったように…」おそらくこの時期、イスラエルえらいなあ、ようやった、というのが大方の日本人のメンタリティだったでしょう。パレスチナ人のことは全く無視されていました。
しかしその後1967年第三次中東戦争が勃発。中東でのアラブ民族主義の台頭を背景にイスラエルが奇襲攻撃。この時代もちろんソ連がご健在でしたから、イスラエル=アメリカ、アラブ=ソ連の代理戦争の様相。だいたいこのあたりで日本人のイスラエル観がひっくり返りましたね。イスラエルムチャしよんな。アラブかわいそうやん。1960年代末からはパレスチナゲリラのハイジャック等が頻発するようになります。すでに当時の日本の学生運動の価値観はあきらかにアラブよりに変化しており、イスラエル=アメリカ=悪になっていました。
1970年「きりひと讃歌」で主人公・桐人はシリアの難民居住区で医師をしています。ここでのアラブ人は明らかに戦争の被害者として描かれます。たった4年での手塚のこの変化は、世界情勢の変化の反映でもあり、マンガ読者の高年齢化が、マンガを世界情勢と切り放しては存在させなくしていたことを示します。
「アドルフに告ぐ」最終第4巻の発行が1985年。このラストシーンで主人公のふたりのアドルフは1973年第四次中東戦争直前のパレスチナで殺しあいます。もはや正邪はなく深い絶望だけが残る。この手塚最晩年の作品には救いというものがありません。
Comments
マンガ形式のルポもなかなか力がありますよ。ただし、ほかの形式のものよりも作者の主観にとらわれやすいとは思います。
アメコミではJoe Saccoという人が紛争ルポものを手がけています。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/search-handle-url/index%3Dbooks-us%26field-author%3DSacco%2C%20Joe/
「Soba」という旧ユーゴ紛争を題材にした作品を所持していますが、現地で友人になったクロアチア民兵が焦燥感にとらわれていくようすを描いたもので、読んでいて胃が重くなる代物です(汗)。
Posted by: とおる | June 30, 2004 01:23 AM
そ、それは勇気があるというか無謀というか。ただしマンガ形式のルポに写真や文章と同じだけの力があるかどうか、読んでみたい気もしますね。
Posted by: 漫棚通信 | June 29, 2004 10:32 AM
大昔のモーニングの企画で、マンガ家をパレスチナだかレバノンだかへ送り込み、ルポを描かせるというものがあったと記憶しています。結局、そのマンガ家が仕事を引き受ける決心を固めるまでのプロローグ部分しか掲載されなかった覚えがありますが。あのマンガ家は何という名前だったけ?
Posted by: とおる | June 29, 2004 12:29 AM