November 20, 2009

虚々実々『マンガ家夢十夜』

 長谷邦夫『マンガ家夢十夜』(2009年水声社、2500円+税、amazon)読みました。

マンガ家夢十夜

 漱石の『夢十夜』にあやかって書かれた、実在のマンガ家が見た(かもしれない)夢をつづった幻想小説集、というかモデル小説、というかパロディ、といっていいのかどうか。

 たとえば、井上雄彦が市川雷蔵ふうの眠狂四郎と遭遇する。つげ義春がつげ風世界を旅する。清水玲子が少女マンガ24年組の大泉サロンを幻視する。

 ううーん、こういう手があったか。

 かたちは幻想小説。でもパロディマンガをたくさん描いてきた著者ですから、根っこはやっぱり理知のひとだと思います。ですから、つげ義春があまりマンガを描いていないのになぜ生活できるのかという謎に対する驚愕のオチがあったり、作品内で萩尾望都『トーマの心臓』論が展開されたりして、夢の中で妄想と理知がせめぎ合っています。

 圧巻は、石森章太郎のお姉さんのことを描いたトキワ荘の章と、赤塚不二夫伝記映画のためのシナリオの章。内容はあくまでフィクションで夢想ではあろうと思いますが、小説内の登場人物はじつに多面的でわたしたちの知らない顔を持っています。これは彼らと生活を共にした著者だからこそ描けるのでしょう。

 しかしお年のことを言っては失礼かもしれませんが、長谷先生の創作意欲はますます盛んで驚くばかりです。

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November 15, 2009

最初に買ったマンガ

 先日BSマンガ夜話を見ていたら、吉崎観音は初めて買ったマンガを覚えているという話題が出てました。はて、自分はどうだったかなと思い出してみますと。

 自分がものごころついたころ実家には横長変形判の単行本、横山隆一『フクちゃん』が存在してました。ぺらぺらの悪い紙だったような記憶が。当時は毎日新聞に連載されてましたね。ただしこの本はわたしのものじゃありません。ウチの親父はマンガ読みませんから、親父の兄弟のだれかのもの、だったはず。

 わたしの子ども時代はマンガ月刊誌の黄金時代ですから、就学前から月刊誌を買ってもらってました。「少年」「少年画報」「冒険王」「まんが王」「少年ブック」などですね。ただし最初に買ってもらった雑誌はさすがにわかんないなあ。集英社「日の丸」は一冊だけ持ってたのを覚えてます。この雑誌の休刊が1963年でしたから、それより前にはマンガ読んでたということになるか。

 当時は雑誌に連載されたマンガが単行本になるのはきわめてまれなことでした。わたしが初めて買ったマンガ単行本は、これはもうまちがいなく光文社のカッパ・コミクス版『鉄腕アトム』。1964年のことです。

 B5判で100ページちょっとの薄い本ですが、二色や四色ページもあって130円。月一回発売される月刊形式で、コラムや短編小説も掲載されてたし、表4にはお菓子の広告がありましたから、単行本というより総集編雑誌というべきかもしれません。

 光文社からはこの形で『鉄人28号』や『ストップ!にいちゃん』も出ましたし、他社からも同じB5判で『伊賀の影丸』『狼少年ケン』なども刊行されました。カッパコミクスは1966年まで続きます。

 1966年にコダマプレスから「ダイヤモンドコミックス」の名で新書判コミックスの刊行が始まりました。以後1968年までに各社からつぎつぎと新書判コミックスの発売が開始されます(秋田書店:サンデーコミックス、小学館:ゴールデンコミックス、朝日ソノラマ:サンコミックス、集英社:コンパクトコミックス、講談社コミックス、少年画報社:キングコミックス、虫プロ:虫コミックス)。貸本じゃない一般書店向けのマンガ単行本の発行点数が急速に増加したわけです。書店にも「マンガの棚」ができるようになります。

 わたし自身が意識してマンガを買いだしたのもこの時期。だもんで、自分で買った最初の新書判コミックスは当然、秋田書店サンデーコミックス第一号の石森章太郎『サイボーグ009』であると、長いこと思いこんでました。

 ところがさっき書庫をのぞいてみると、『サイボーグ009』1巻の発行は1966年ですが、わたしが持ってるのは1969年発売のもの。あれれれ。

 どうも1968年の小学館ゴールデンコミックス版『鉄腕アトム』とかのほうを先に買ってたみたいです。記憶はまったくあてになりませんな。

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November 11, 2009

アチラ版少女マンガ『GIRL(ガール)』

 ジュリアン・タマキ/マリコ・タマキ『GIRL(ガール)』(2009年サンクチュアリ出版、800円+税、amazon)について。

GIRL(ガール)

 著者はカナダ在住、日系三世のいとこ同士のふたり。

 トロントの女子校に通う日系少女のお話。少女の日常をフィクションで描く、というのは日本マンガのお得意ですが、それ以上にジミでリアルな作品。モノクロで描かれたオルタナ系のマンガです。

 原題は「Skim」。スキムミルクのスキムですな。主人公の体形が太めで名前がキムバリー・ケイコ・キャメロンであるのをもじり、友人たちは彼女をスキム(低脂肪)と呼んでいます。まあイジメに近い呼び名なんでしょう。

 彼女はいわゆるゴスです。魔法使いにあこがれ、実際に森で魔術を試したりしている。両親はすでに離婚。母親と一緒に住んでいますが、母親は元夫のグチばかり。学校の友人たちはスキムから見ると偽善者。同級生男子が自殺したり、そのガールフレンドが屋上から転落したりという事件が起こります。うつうつした日々が続きます。

 スキムは女教師に恋をして彼女をストーキングしたり、友人にさそわれて他校の男子と会ったりしますが、彼らがいわゆるオタクであったりして、さえないことおびただしい。

 という、まったく花のないマンガ。デートの前に鼻の下のヒゲの処理をするシーンがあったりしますから、日本の少女マンガがあえて描かない部分にも踏み込んでます。

 コマ構成などは日本マンガに近い部分もあります。ヒトコマにフキダシひとつかふたつ。フキダシのないコマもはさまってこれがくり返され、ワンシーンに多くのコマが費やされる。こういうのはアチラのマンガとしてはめずらしく、日本読者にも読みやすい。

 驚くべきは日系少女の造形で、のっぺりした顔と太めの体形をみごとに表現していて、白人と描きわけてます。こういう描き方をする日本マンガはまったく存在しませんから、じつに新鮮でした。対して白人少女の顔は古典的カートゥーンアニメーションによくあるような造形で、これにもちょっと驚いた。

 小さな事件が起こり小さな変化はありますが、終幕にいたっても何の解決があるわけでもありません。それが現実。主人公の悩みは、おそらく性差、国籍をこえて青少年が抱える普遍的なものでしょう。

 絵はびっくりするほどうまく、少女たちの微妙な感情は背景や風景をとおしても描写されます。こういうのは絵そのものの力に劣る日本マンガは不得意ですね。

 惜しいのは印刷で、線が線じゃなくてドットの集合になってること。原書もそうなのかしら。筆で薄墨ふうに描いてるからしょうがないところもあるのですが、やっぱ線は線として印刷されてるのが読みたいです。

 世界にもいろんなタイプのマンガが登場していることを感じさせる、優れたマンガだと思います。

 本作は2008年のイグナッツ賞のグラフィック・ノベル部門を受賞しています。イグナッツ賞(Ignatz Awards)というのは英語圏のオルタナ系コミック/カートゥーンに与えられる賞です。イグナッツとはアメリカの古いマンガ『クレイジー・キャット Krazy Kat』に登場するネズミの名前。クレイジー・キャットはイグナッツ・マウスをダーリンと呼んで愛していますが、イグナッツはそれに答えてクレイジーにレンガを投げ続ける、というシュールな関係を描いたナンセンスマンガです。

 『クレイジー・キャット』は大衆的な人気を得たマンガですが、オルタナ系の賞にイグナッツの名を冠しているのはおもしろい。とくに本作のスキムは、イグナッツやクレイジーに何となく似てる感じがするのです。

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November 08, 2009

やな気持ちになってください『芋虫』

 江戸川乱歩『芋虫』は雑誌「新青年」昭和4年1月号に発表されました。まあ知らないひとのほうがめずらしいでしょうからネタバレしますが、戦争で四肢を切断され耳も聞こえず口もきけなくなった元軍人と、彼を介護する妻の関係を描いた短編。

 肉体を破壊され、おそらく精神も障害されている夫。彼を介護しながら嗜虐に満ちた性生活に溺れる妻。人間の悲劇と愚かさが性の快楽と表裏に表現されてます。発表当時から好評で、乱歩自身も代表作と考えてました。自作解題では「私の代表的短編集には必ず編入した」と書いていますし、英訳もされてます。マンガ方面では、山上たつひこ『光る風』のいちエピソードのモトネタですね。

 で、昨年江戸川乱歩『パノラマ島奇譚』をマンガ化した丸尾末広が『芋虫』もマンガ化。

●丸尾末広/江戸川乱歩『芋虫』(2009年エンターブレイン、1200円+税、amazon

芋虫 (BEAM COMIX)

 前作『パノラマ島奇譚』は、乱歩の夢想した空想世界をスケール大きく可視化して、たいへん楽しい作品になりましたが、今回は逆に密室の情事、精神の深みの狭いところにもぐりこんでいくような作品。エロいですが、読んでて気が重くなるのもたしかです。

 傷を受けた男の顔、姿を目をそむけずに描写し、さらに加虐かつ被虐的な性交渉シーンも性器や室内の小物までこまかく描きこんであります。さらに原作にはない、日常の食事や排泄のシーンなども描かれます。

 丸尾末広の圧倒的な画力は、幻想的でありながら肉体や生活のリアルを読者の眼前に展開。読む人間をなんともいえず、やーな気持ちにさせるったらありません。

 ただこのやーな気持ちというのは、肉体の欠損とは何か、ヒトとは何かということを読者に考えさせられるからでもあって、ああ、説明しづらいっ。ともかく読後感最悪の、ひとをやな気持ちにさせる、傑作です。

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November 06, 2009

楳図かずおの四コママンガ入門

 昨日よりNHK教育テレビで始まった「趣味悠々 楳図かずおの今からでも描ける!4コマ漫画入門」(全8回)の第1回を見ました。発売中のテキストはこちら↓

●『楳図かずおの今からでも描ける!4コマ漫画入門(NHK趣味悠々)』(2009年日本放送出版協会、1000円+税、amazon

楳図かずおの今からでも描ける!4コマ漫画入門 (NHK趣味悠々)

 本来は中高年向けの「趣味で」描く四コママンガ講座。わたしもりっぱな中高年ですので、視聴する資格はあるでしょう。でも子どもが見てもおもしろいと思いますよ。

 趣味の四コママンガといっても、最近はネットを使えば人に見せることはいくらでも可能ですし、自分でもやってみようというひとは増えてるのかもしれません。

 第1回は、キャラクターをつくろうの巻。なるほどー、やっぱキャラクターからはいりますか。四コマであっても、とにもかくにもこれが楳図マンガの基本なのね。

 まずキャラクターの姿、性格、行動パターンを箇条書き。顔のりんかくが決まったら、眉、目、口の位置を福笑い方式で決定。カラダは二から四頭身で、手足は勢いよくポーズを決める。あと、サンプルを見ながら服装を決めると、あら不思議、生徒のふたり(松本明子とシャ乱Qのまこと)が描いたものも、りっぱにマンガのキャラクターとして成立するものですね。

 次回からもキャラクター中心のマンガづくりが指導されるようです。

 オマケ的には、この番組、スタジオじゃなくてすべてあのまことちゃんハウスで撮影されてまして、これが楽しいったら。

 蜷川実花が撮影したまことちゃんハウスの写真集『UMEZZ HOUSE』はゲージツ的すぎて、何が写ってるのかわからない困った本でしたが、こちらはTV画面のすみっこにちらちら見える部屋の細部がたいへんステキです。

 テキストのほうも、楳図かずお作品の紹介とか習作四コママンガとか載ってて読むところ多いし、なかなかけっこうでした。

 毎週木曜日22時より放送中。再放送は翌週木曜日昼0時よりとなっております。

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November 03, 2009

近況など

 年末に発売されるフリースタイル「このマンガを読め!2010」の年間ベストテンに投票させていただきました。

 ベストテンというのはお祭りであって、楽しくやればいいというのはわかってるつもりなのですが、こういう経験は初めてだったのでずいぶん緊張しましたよー。

 昨年の宝島社「このマンガがすごい!」のオトコ編トップは『聖☆おにいさん』、オンナ編トップは『坂道のアポロン』でした。ところが、そっちではまったく無視されてた『ママはテンパリスト』が「このマンガを読め!」でトップをとるという展開。うわ、びっくりした。

 これは発行年月日の問題ではないので、完全に選者の好みによります。ちなみに昨年の「このマンガがすごい!」の投票者数はオトコ編79人、オンナ編79人。「このマンガを読め!」のほうは50人でした。

 わたしにとってこういうベストテンは、読みのがしてるマンガをチェックするために機能してたのですが、自分が投票するとなるとまた別ものですねえ。

 投票するほうの気持ちとしては、

●ひとと同じものを挙げてるだけではおもしろくないよなあ。
●かといって、レアものだけに投票するのもヘンだし。
●今年を代表するマンガを取り上げる責任というものがあるのじゃないかしら。
●でも長編連載だけ推してたら毎年同じものになっちゃうし。

 とまあ、どうどうめぐりで迷う迷う。

 さて漫棚通信の今年のベストは。迷いに迷った結果は、いずれ発売されるものをお読みください。

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October 30, 2009

『昭和ちびっこ広告手帳』1970年代初期版

 マンガじゃないんですが、以前に紹介した本の続編が出ました。前作の評判が良かったそうです。

●おおこしたかのぶ/ほうとうひろし『昭和ちびっこ広告手帳 東京オリンピックからアポロまで』(2009年青幻舎、1200円+税、amazon
●おおこしたかのぶ/ほうとうひろし『昭和ちびっこ広告手帳2 大阪万博からアイドル黄金期まで』(2009年青幻舎、1200円+税、amazon

昭和ちびっこ広告手帳 〜東京オリンピックからアポロまで〜 昭和ちびっこ広告手帳2 大阪万博からアイドル黄金期まで

 出版社よりご恵投いただきました。ありがとうございます。

 マンガ雑誌に掲載されたいろんな広告を集めた本。雑誌からスキャンしてフォトショップで修正。文庫サイズですがたいへん美しい仕上がりになってます。前作は1965年から1969年まで、続編の「2」は1970年から1974年までを収集。

 表紙カバーになっているのは、あの、小川ローザの「Oh!モーレツ」です(CMがYouTubeにありました)。マンガ方面では、永井豪『ハレンチ学園』のジャンプコミックス2巻のカバーイラストが、このコスプレです。

 前作とどこがちがうかといいますと、まず広告が採集された雑誌がちがう。前作はまだまだ月刊誌が多い時代でしたが、続編になるとほとんどが週刊誌。たまに月刊誌が混じってます。プラモデルなどは前作ではイマイのサンダーバードだったりしますが、「2」ではタミヤのタンクや各社のウォーターラインシリーズが主流になってて、リアル志向ですな。ラジオの広告が増えたのも時代です。

 でも子どもはやっぱり子ども。このころの(今もか?)子ども向け雑誌の広告というのは、つくづくジャンクなものの宝庫ですね。

 シーモンキーなんかなぜ欲しいと思ったのか、今となっては謎です。怪獣の絵が描いてある日立乾電池はともかく、「ナショナル乾電池を買ってはにわ(プラスチック製)を集めよう」というのはキャンペーンとして成立したのか。

 わたしはこの時期になりますと、ちょっとだけオトナに近くなってますので、モデルガンが欲しくて欲しくてたまりませんでした。とくに「平玉紙火薬でセミオート・ブローバック」というのがどういう仕組みかよくわかんないけど、かっこよさそうでねえ。でもそれでほんとにブローバックしたのか?

 さらに、「君のつくった模型飛行機に、空中モーター専用の飛行機にポンとつけるだけで、大空高く舞い上がる」という「マブチモーター製空中モーター マブチA-1」というのはホントに飛んだのかっ!?

 読んでいてまさにおもちゃ箱をひっくり返した感じ。今回も楽しい本でした。

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October 27, 2009

紙がかたい

 ものごとの本質とは関係ないどうでもいいことですが。

 最近の双葉社のA5判マンガ単行本って、紙がかたくないですか。

 市橋俊介『漫画家失格』と谷口ジロー/川上弘美『センセイの鞄』1巻を連続して読んだせいか、よけいに気になりました。これってとくに双葉社の本に特徴的なんですよ。他社のものよりけっこう紙がかたい。そしてちょっとだけ厚い、ような気がする。

 書棚の本を調べてみると、相原コージ『異種格闘技大戦』や武富健治『鈴木先生』の最初のほうからすでにかたい紙を使ってたようです。こうの史代『この世界の片隅に』もそう。『夕凪の街桜の国』が薄いつるりんとした紙だったから対照的でめだちます。

 双葉社のA5判単行本でも、わたべ淳『遺跡の人』とか村上たかし『星守る犬』なんかは他社と同じような紙なのですが、最近の双葉社のA5判はおおむね、かたくて厚いことが多いです。

 で、かたいからどうしたという話なのですが、本が曲がりにくい。そして本を広げるのにぐいっと力が必要。だもんでなんかこう、読みにくいんですな。みんな気にならないのかなあ。

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October 24, 2009

復刊やまだ紫

 本年5月に亡くなったやまだ紫の諸作品が「やまだ紫選集」として復刊されてます。

コミックナタリー:やまだ紫の代表作が復刊!「やまだ紫選集」3カ月連続刊行

 まず最初に刊行されたのがこれ。

●やまだ紫『性悪猫(しょうわるねこ)』(2009年小学館クリエイティブ、1400円+税、amazon

性悪猫―やまだ紫選集

 ご夫君の白取千夏雄氏よりご恵贈いただきました。ありがとうございます。

 これまでにも複数回刊行されてきた、永遠の名作です。

 それぞれ数ページの作品からなる連作短編集。ここに書かれたマンガでは、語り手の多くは猫です。しかし彼らの言葉、これがもう推敲を重ねてつくられていることがよくわかる。やまだ紫の書くセリフやキャプションは、短文にしてじつに余韻のある語り言葉なのです。そこにいきいきとした猫の絵が加わり、さらにコママンガとして緊張感のある展開。

 たとえば『さくらに風』という作品。

 家のなかで二匹の猫がじゃれている。障子をへだてて編み物をする女性。その女性のアップがあり、宙にモノローグが浮いています。

やさしい自分(わたし)であろう

 次のコマ、編み物をする手のアップとモノローグ。

やさしさを失くすまい

 読者は、語り手を当然この女性と考えます。ところが、次のコマ。

──と 貴方が思うとき

 あれれ、二人称が出てきた。となると語り手はいったい誰。数コマの後、それが明らかになります。猫のアップに重ねて、

貴方は淋しいのだ

 つまり、語り手は猫なのです。貴方とは飼い主である女性のこと。女性のモノローグと思わせてじつは猫のモノローグ。

 しかし、読み進むうちにこれがさらに逆転します。実際のところ猫がこんな高度なことを考えるわけはありません。このモノローグはやっぱり猫に語らせる形で女性が自分の思いをつぶやいているのです。

 磨き上げられた言葉と、緊張感を持った線で描かれた絵が出会い、しかもそれがすぐれたマンガになっている奇跡。

 30年前の作品ですが、少しも古びていない。やまだ紫を知らないあなたにこそ、読んでもらいたい作品です。

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October 23, 2009

ついったーをマンガ化すれば『中央モノローグ線』

 すてきな二色のカバーデザインに引かれジャケ買いしたけど、これはよかった。

●小坂俊史『中央モノローグ線』(2009年竹書房、743円+税、amazon

中央モノローグ線 (バンブー・コミックス)

 一巻だけで完結してます。えっと四コママンガです。

 中野から武蔵境まで、東京の中央線沿線、8つの街に住む8人の女性のお話。彼女たちは互いに知り合いというわけでもありません。

 彼女たちがモノローグでいろいろとつぶやいているマンガ。そのつぶやきの内容の多くは、自分の生活と住んでる街とのかかわりについて。

 四コママンガですから四コマ目で一応のオチがあるのですが、すべって転んでぎゃふんというようなものではありません。しようがねえなあ、という感じのオチが多いし、そもそもオチてないのもあります。だって彼女たちのモノローグは、日々の生活のなかでのつぶやきですからね。

 個人的つぶやきがそれぞれの街の姿を描き、さらにその集成が中央線沿線という大きな地域を描いていく。わたし最近「Twitter」始めたもので、それにちょっと似てるなと感じました。みんながかってにつぶやいているのに、総体として作品になってるじゃないか、なんてね。

 わたしが好きなのは、武蔵境に住む中学生、キョウコちゃんの話。土地勘がなくてよくわかんないのですが、武蔵境と隣の三鷹との間には大きな「中央線のカベ」があるらしい。

 そこからむこうは都会、こっちは田舎、なんだそうです。ですから彼女はこの壁を越えること=大人になることと考え、いろいろとトライしては挫折し、さらに未来を夢見ます。

 知ってる地域のあるあるネタというわけでもなく、これは普遍だよなあ。

 というわけでわたしとしてはたいへんお気に入りなのですが、この作品ウチの家族には、中央線ったってなじみないしー、ジミやしー、とあまり人気がありません。お前らはわかっとらんっ。

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